＜10月12日　紀尾井ホール＞　抑圧されてきたヒロインは、切々と力強く自身の感情を表現する。10月、ソプラノ歌手・佐藤美枝子は4つの歌劇作品の「狂乱の場」を歌唱する、〈狂乱 KYO-RAN 響蘭〉を開催。多くのオペラでソプラノ歌手の魅せ場ともなっている「狂乱の場」だが、その歌唱には超絶技巧を要するため、4人のキャラクターを演じ分ける今回のリサイタルは、国内外で活躍してきたベテランだからこそできるものだろう。
　このリサイタルで取り上げられるのは、狂気に陥ってしまった女性たち。しかし、その実情は男性中心の社会に振り回され、抑圧された末の狂乱。たとえば《ランメルモールのルチア》の女性主人公・ルチアはエドガルドという恋人がいたにも関わらず、兄の策略により貴族アルトゥーロとの結婚を強要される。エドガルドもルチアに裏切られたと憤慨、どうしようもなくなったルチアは発狂し、アルトゥーロを刺殺する。男たちの地位や権力に利用されたという物語を踏まえた上で「狂乱の場」を聴くと、さらに胸に迫るものがあるだろう。
　当日は4人の女性たちの想いを、佐藤の歌で感じ取っていただきたい。

＜文・山下実紗＞