3月5日の『ららら♪クラシック』は、「バート・バカラック〜名曲にクラシックのスパイスを〜」でした。1928年生まれのアメリカ人作曲家、バカラックは10代のころにラヴェルのバレエ音楽《ダフニスとクロエ》に出会います。同じころに知ったビバップとともに、彼の音楽人生を左右する出発点となりました。今回の番組キーワード集では、そんなバカラックの音楽の革新性に迫っていきたいと思います。
新鮮でしかも盗作の感じがしない簡素なメロディをつくることほど難しいことはない。
バート・バカラックの言葉です。この一言に、彼の作曲における芸術的指向が現れています。クラシック音楽の作曲家は、まさにこの、バカラックの一言に込められた思いで、作曲してきました。ベートーベンはモーツァルトという巨大な壁を超えるために、憧れの中にもそれを超克しようともがき、またベートーベンがそうして打ち立てたこれまた大きな壁に、その後の作曲家も苦しめられる。こうした結果、クラシック音楽は、どんどんと複雑に、新しいものへと生まれ変わることとなりました。過去の偉大な作品に渡り合うには、何かこれまでとは“変わったこと”をしなければなりません。
番組では、解説者の栗山和樹さんが、バカラックの音楽には“変わった”ところがたくさんあることを指摘しました。具体的に、ミュージカル音楽の《プロミセス・プロミセス》やディオンヌ・ワーウィックが歌った《サン・ホセへの道》を引き合いに出し、拍の取りにくい“変拍子”や、楽節のユニークさ、コードの複雑さを説明していました。後者《サン・ホセへの道》では、普通の音楽では4小節でひとまとまりになるところを、1小節を加え5小節でひとまとまりにした面白さを語っています。こうした楽節の加減は、バカラックの曲には多く表れます。普通に聞いていると気づきませんが、実は名曲《雨にぬれても》にも、楽節の追加が行われている箇所があります。“変わったこと”を自然に聞こえるように行うところに、バカラックの天才性が垣間見えます。ちなみに、簡素な曲になりがちなところに、楽節を加減することで独自のものにしていく技法は、マーラーも《交響曲第6番》の第3楽章の主題に用いたりと、特に19世紀末~20世紀前半のクラシック作曲家にもよく見られます。
2021年03月05日放送
バート・バカラック〜名曲にクラシックのスパイスを〜