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2021年01月15日放送
「メタル loves クラシック!?」

メタルの多様性

メタルの多様性
 2021年1月15日の放送は「メタル loves クラシック!?」でした。両極端に位置する2つの音楽クラシックとヘヴィ・メタルの親和性を探る中で紹介された「声の出し方の違い」から、「発声法」をキーワードとして選んでみました。
クラシックから見るメタル
 ヘヴィ・メタルとクラシックの共通点は、意外と少なくありません。鍵盤楽器曲トッカータの空間恐怖症のような音の洪水的使い方、弦楽器曲カプリッチョの高速スタッカートや重音フラジョレットなど、高度なテクニックの強烈なプレゼンテーション、そして器楽曲ファンタジアの形式にとらわれない自由さ。悪魔主義な破壊的パフォーマンスアートの一方で神秘主義に偏る要素も併せ持ち、加えて音階、分散和音、反復(リフ)を即興的に組み合わせ、高速で高度なテクニックを追求するリードギタリストたちの姿勢は、楽譜に重きを置かない点でもヴィルトゥオーゾの姿と重なります。とすると、メタル界にはパガニーニがたくさんいるという感じですね。そういえばパガニーニはギターの名手でもありました。メタルとは対極にある優美でおだやかな、まるでベルカント歌曲のようなギター曲を多く残しています。
メタルに見るボーカルテクニック
 18世紀から続くベルカントの、より滑らかで、より丸く、よりエレガントな「歌の伝統」に相対するヘヴィ・メタルのボーカルは、感情を表現するために、まず大音量と絶叫、次に高音、濁りと粗さ、エフェクターによる「ひずみ」、そして暴力的で過激さを演出する「唸り声」を使います。声楽的なテクニックで言うと、カストラートに代表される力強く突き刺すファルセット、パワーとひずみはオーバードライブ(声帯の下に空気圧をかける)、効率的な息の消費量で滑らかなディミヌエンドを作る長めのビブラート(声門内転)、雑音から倍音を出すディストーション(声帯の上の声道その他の共鳴部分を振動させる)、メタリックなサウンドはトワング(喉頭の上部を後方に傾けて出す)、ゴスペルでよく使われる地声のような高音で迫力を出すベルティング(声門下への圧力で声帯を閉じて太く叫ぶ)などを駆使します。サウンド全体でどのような役割を果たすかで決める感じですね。これらは一見、喉を痛めそうでいて、実は声帯の振動は通常のオペラ発声よりも弱いのだとか。多様性に富むメタルの発声方法は、ただ「音色」として考えれば声楽アイディアの宝庫かもしれません。 参考文献: 「Eruptions: Heavy Metal Appropriations of Classical Virtuosity.」Robert Walser, Popular Music, vol. 11, no. 3, 1992, pp. 263–308. JSTOR, 「HEAVY METAL VOCAL TECHNIQUE TERMINOLOGY COMPENDIUM: A POIETIC PERSPECTIVE」Paolo Ribaldini, University of Helsinki Faculty of Arts - Department of Philosophy, Arts and Society, Licentiate Thesis, April 2019 「Grove Music Online : Bel canto」 「悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト : パガニーニ伝」浦久俊彦著,(新潮新書, 775)新潮社, 2018 (文・武谷あい子)

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