11月6日の放送は「清塚信也が語る〜作曲家が愛した美術」でした。番組では、ピアニスト清塚信也さんに、絵画に影響された音楽作品、また、音楽に影響された美術作品について語っていただきました。今回のキーワードはそのまま「音楽と美術」とし、その二つの芸術の接点をもう少し掘り下げていきます。
絵が上手な作曲家
番組では、絵も上手な作曲家として、メンデルスゾーンが紹介されていました。 メンデルスゾーン『ルツェルンの風景』
銀行家の裕福な家に生まれたメンデルスゾーンは、音楽のみならず絵や語学にも優れていました。旅に行く先々では、音楽のインスピレーションはもちろんのこと、水彩画も残しています。
他にも、20世紀の作曲家、A.シェーンベルクも、絵を描くことを趣味としていました。自画像や弟子ベルクの肖像画、マーラーの葬儀の絵などが残っています。カンディンスキーなど表現主義の画家たちとも親交があり、自身も表現主義的な画風で描いていました。
絵画に触発された音楽作品
ドビュッシーの交響詩《海》は北斎の『富嶽三十六景』の「神奈川沖浪裏」からインスピレーションを得て作曲されました。東洋風の音階を使った波の表現が、北斎の“浮世絵の波”を感じさせます。 ラフマニノフやレーガーに影響を与えたベックリン『死の島
他にも、ラフマニノフの交響詩《死の島》は、ベックリンの同名の絵画(正確にはそのクリンガーの銅版画複製)に霊感を得て作曲されており、レーガーにも《ベックリンによる4つの音詩》という曲があります。また、リストには、番組で紹介されたピアノ曲《伝説》以外に、《死の舞踏》もフレスコ画から着想を得たと言われています。
このように絵画に触発された音楽作品を語ると枚挙にいとまがありませんが、最も有名なのは、ムソルグスキーの組曲《展覧会の絵》でしょう。この作品は、作曲者の友人の画家、ガルトマンの遺作展で見た絵を10枚選んで組曲にしたものといわれています。10枚の絵の他に「プロムナード」と題された部分がいくつかあり、美術展を歩くムソルグスキー自身の心情を表しています。第8曲「カタコンベ」はガルトマンへのレクイエムとしての意味合いが込められていますが、このあとの「プロムナード(死せる言葉による死者への呼びかけ)」では、冒頭では明るかったプロムナードの旋律が、暗く沈んだ形で再現されます。昔、NHKの番組で、この《展覧会の絵》のもとになった絵を、作曲家の團伊玖磨氏が追跡するドキュメンタリーが放送されました。「革命に消えた絵画~追跡・ムソルグスキー『展覧会の絵』」という番組名だったと思います。高校生の時、筆者はこの番組のビデオを見て、《展覧会の絵》に大変興味を持ちました。この番組の内容は書籍化もされていますので、興味を持たれた方は探してみてはいかがでしょうか。