10月30日の放送は「大友直人が語る地方オーケストラの未来 〜琉球交響楽団の活動から〜」と題して沖縄を拠点に活動する琉球交響楽団にスポットを当て、その活動が取り上げられました。普段、楽器やオーケストラに触れる機会の少ない離島に楽団自ら訪れ演奏する、という取り組みは、島民にとっても刺激的な体験となります。今回のキーワードは「島と音楽」とし、離島に向けた音楽団体の様々な取り組みをご紹介いたします。
CASE1:馴染みのメロディをオーケストラで〜沖縄県の離島から〜
番組では、琉球交響楽団の取り組みをご紹介しましたが、沖縄にはほかにも“琉球フィルハーモニック・オーケストラ”という団体があります。両オーケストラとも、県内の離島をめぐりコンサートを行っています。琉球フィルでは毎回、楽器紹介で《沖縄のメロディーによるオーケストラ入門》という作品を演奏しています。瑞慶覧尚子・宮城綾菜の両氏によって作曲されたこの作品は、その題名の通り、聴きなじみのある沖縄の民謡や唱歌を使ってオーケストラの楽器を知ってもらおうというものです。番組で紹介された琉球交響楽団の《沖縄交響歳時記》もそうですが、ただ訪島して西洋音楽を聴いてもらうのではなく、その土地のオリジナルの音楽に敬意をもって、そしてその土地の人がもっとも親しみやすい形で演奏会を構成する、というところに、“地方オーケストラ”ならではの強みを感じますね。CASE2:瀬戸内海の島々に音楽を届ける“し・ま・の・オーケストラ”
離島を回って音楽を届けるオーケストラということで、もう一つご紹介したい団体があります。瀬戸内海の島々を回って演奏活動をしている“し・ま・の・オーケストラ”です。 大三島で行われた第5回演奏会の様子。クラシック音楽に加え、代表メンバーの豊嶋氏作曲《しまなみ讃歌》が初演された。
瀬戸内海の島々に住む人もまた、オーケストラに触れるという機会は稀です。この“し・ま・の・オーケストラ”は2013年から、こうした人々に、クラシックをより身近に感じてもらおうと活動しています。この企画を立ち上げた豊嶋博満さんは、第1回目の演奏会を伯方島で行ったとき、予想以上の反響に、島の人々が潜在的に音楽を求めていると感じたそうです。離島では高齢化が進んでおり、若いメンバーが中心となっているこのオーケストラが訪れること自体、とても喜ばれたとのこと。現在、オーケストラ・コンサートの他に、メンバーの何人かで島の学校や児童館などを回って室内楽を演奏するという活動もしています。
CASE3:伝統音楽を拡張する〜音楽の島での演奏会から〜
最後に、奄美群島の例をご紹介します。奄美群島には“シマ唄”という文化があります。かつては群島内の様々な集落(シマ)で一般的に歌われていたものですが、現在では“奄美民謡大賞”や元ちとせなどの人気歌手の影響で、昔とは違った形で盛り上がっています。 喜界島で行われた『了知と情熱〜躍る喜界島』公演の様子。演者も観客も一緒になって踊る。
筆者を含む調査チーム“伝統の身体・創造の呼吸”では、これら伝統音楽の継承の実態を調査していますが、その一環で、2018年には喜界島でコンサートを行いました。外部の作曲家や地元のシンガーソングライターの新曲と、昔から島で歌われているシマ唄など、西洋音楽・民謡・ポピュラー、すべてを織り交ぜた演目でした。多くの島民が普段から音楽に触れており、シマ唄が流れると体が動いてしまうなど、身体で音楽を表現する力を持っています。結果、このコンサートは、演者と観客が入り混じり、全員が演者、といった形で幕を下ろすこととなりました。普段から独自の音楽文化に溢れている島に、外部から別の新しい音楽を持ち込むということもまた、面白い化学反応を起こすのだな、と感じました。
(文・一色萌生)