＜2月25日　群馬・高崎芸術劇場＞　指揮者であり、高崎芸術劇場の芸術監督を務める大友直人が手がける演奏会「T-Mastersシリーズ」。日本を代表し、第一線を走り続ける音楽家たちの演奏を堪能できるとても貴重な機会だ。2021年に始まったこの演奏会シリーズも7回目。登場するのは、幅広い表現を誇るピアニスト伊藤恵。今回伊藤はベートーヴェンの最後の3つのピアノ・ソナタを披露する。
　これらのピアノ・ソナタは1820〜1822年に書かれ、ベートーヴェンの晩年にかけて深まった精神や表現があらわれている。ベートーヴェンは《月光》や《熱情》などの中期の作品から、より自由に新たな時代を進んでいく様子と、バッハなど前時代の対位法的な書法を組み合わせた誰にも真似することのできない作品を作り上げた。演奏には高い技術力を要する上に、作曲家の内省的で深遠な精神を読み解き、表現しなければならない。
　そんな3曲そろった演奏はある種憧れや目標のようなものであり、多くのピアニストがリサイタルや録音をしている。伊藤はこれまでの演奏会でそれぞれを弾く機会はあったが、今回満を持して3曲の演奏を披露する。「これを弾くこと自体が勇気がいるんですけれども、皆さまとこのすばらしい音楽を分かち合えることを心から楽しみにしています」と語る伊藤恵。音楽への愛に満ちあふれ、さまざまな音楽の表情を的確に表現する、ベテランのさらなる挑戦を堪能したい。ぜひ貴重な機会をお聴き逃しなく。

＜文・山下実紗＞