＜12月7日　札幌コンサートホールKitara　ほか＞　『竹取物語』といえば、おそらくその内容を知らぬ人はいないだろう。「日本最古の物語」とも呼ばれるほど広く知れわたっている。竹取の翁……いや、「おじいさん」と言った方がよいだろうか。山で竹を採っていたおじいさんが、光り輝く竹の中から小さな女の子を見つけ、「かぐや姫」と名付けて、おばあさんと一緒に大切に育て、やがてかぐや姫は美しく成長し、5人の男が彼女を妻にしたいと申し出る。かぐや姫はそれぞれの男に難題を課すが、だれも難題に応えられず、妃にしたいという帝の願いさえも退けてしまう。果たしてその理由は……。
　沼尻竜典が作曲した歌劇《竹取物語》は、「竹取物語」を原作とし、沼尻自らが忠実に台本化した作品である。誰もが子どものころから慣れ親しんだ歌謡曲のスタイルを採り入れている。耳なじみのよいメロディが散りばめられた本作は、大人から子どもまで楽しめる作品となっている。
　かぐや姫役の砂川涼子（23日）、高田瑞希（24日）をはじめ、日本のオペラ界を牽引する実力派がずらりと並ぶ豪華キャスト、そしてびわ湖ホール芸術監督である阪哲朗の指揮する日本センチュリー交響楽団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、竹取物語合唱団による演奏に大いに期待したい。また本演目はiichiko総合文化センター（大分県立総合文化センター）、北海道・札幌コンサートホールKitara、やまぎん県民ホール（山形県総合文化芸術館）でも公演が予定されている。合唱やオーケストラが会場によって異なるため、その違いも楽しみだ。
　故・栗山昌良による2015年上演版の演出を引き継いで、栗山の弟子である中村敬一による演出が行われる本公演では、オーケストラも舞台空間の役者としてステージに上がり、ソリストたちがオーケストラの前で歌う。音楽、照明、衣装、映像が織りなす幻想世界を、ぜひ目と耳で味わってほしい。

＜文・加藤新平＞