10月2日の放送は、2019年5月17日に放送した「Road to ベートーベン(2) 楽聖の魂 ピアノ・ソナタ」の再登場でした。ベートーベンの全32曲の番号付きピアノ・ソナタは、それぞれが創意工夫に溢れ、音楽の新たな道を開拓しています。ベートーベンの魂が込められたこれらのピアノ・ソナタは、一つとして無視できない珠玉の名作たちなのです。そこで今回は、全32曲が持つ作品の魅力を一言ずつ、すべて紹介したいと思います。
●初期ピアノ・ソナタ -情熱あふれる若きベートーベンの軌跡
第1番ヘ短調Op.2-1
ベートーベンの憧れの作曲家、モーツァルトの《交響曲第25番》の旋律によく似た主題が出てきます。フィナーレは、この時代のヘヴィ・メタルともいえる、若く野性味あふれた音楽です。
第2番イ長調Op.2-2
ベートーベンにとってピアノ・ソナタは自身の実験の場でもありました。この作品には、オーケストラの音を連想させるような部分が垣間見えます。
第3番ハ長調Op.2-3
冒頭の、木陰から小動物がひょっこり顔を出すようなかわいらしさが印象的です。第4楽章は、三和音の水平移動による軽やかな駆け上がりが、ストラヴィンスキーの《ペトルーシュカ》を想起させます。
第4番変ホ長調Op.7
同音連打の使い方が見事な楽曲です。第1楽章冒頭はすでに後年の“ワルトシュタイン”を思わせます。一方、第4楽章冒頭の属音の同音連打は、まるで異空間から演奏途中の音楽がフッと現れたような不思議な感覚がします。
第5番ハ短調Op.10-1
ハ短調というこの作曲家を象徴する調と、付点のリズムが目立つ力強さは、我々がイメージする“ベートーベン像”そのものではないでしょうか。
第6番ヘ長調Op.10-2
呼びかけと応答の印象的な冒頭を経て、上行するバスに乗ってしなやかで美しい旋律が現れます。第2楽章もまた、暗い地中から美しい草花が徐々に顔を出すよう。
第7番ニ長調Op.10-3
第1楽章のユニゾンの冒頭、第4楽章の断片的な冒頭、冒頭を聴いただけでは何が始まるのか分からない、不思議な魅力のある楽曲です。第2楽章は、これ以上ないほどに暗く重い曲です。
第8番ハ短調「悲愴」Op.13
グラーヴェの重く暗い序奏を持つ、言わずと知れた名曲です。ベートーベンの全曲の中でもこれ以上ないほど優しく美しい第2楽章をはじめ、全曲にわたって魅力的な楽曲です。
第9番ホ長調Op.14-1
第8番とうって変わって、しなやかで優雅な曲想です。秋を感じさせます。
第10番ト長調Op.14-2
第9番が“優美”なら、この第10番は“甘美”。第2楽章の行進曲風緩徐楽章は、チャイコフスキーにも通ずるところがあります。
第11番変ロ長調Op.22
雄大で充実した作品です。一方で第4楽章にはキャバレー音楽のような部分もあります。
第12番変イ長調「葬送行進曲」Op.26
第3楽章に葬送行進曲を置いた曲です。ソナタ形式の楽章が一つもなく、第1楽章には美しい主題の変奏曲が配置されています。
●中期ピアノ・ソナタ -脂ののった“傑作の森”
第13番変ホ長調「幻想曲風ソナタ」Op.27-1
第2楽章のしなやかさと勢いが同居した不思議な世界観が光ります。各楽章がそれぞれ明確な色を持っています。
第14番嬰ハ短調「月光」Op.27-2
第2楽章のミステリアスな雰囲気と硬質な雰囲気が同居した不思議な世界観が光ります。各楽章がそれぞれ明確な色を持っています。
第15番ニ長調「田園」Op.28
具体的な描写はないものの、この愛称からか、雨のポツポツという音や鳥の声、バグパイプの音が聞こえてくるようです。
第16番ト長調Op.31-1
よくピアノの演奏会で聞かれる曲です。第1楽章はベートーベンらしい力強さとノンストップさを楽しめます。
(文・一色萌生)