8月31日に開催される、「ららら♪クラシックコンサートVol.11 ソリストたちのカルテット~千住! 石田! 飛澤! 長谷川! 大御所ズ☆室内楽~」にむけて、弦楽四重奏曲の歴史を紐解きながらその魅力を紹介する連載をスタートします。第1回目の今回は、“弦楽四重奏曲の父”ことハイドンの弦楽四重奏曲をご紹介します。
ハイドンの話をする前に、弦楽四重奏曲全体の話から始めましょう。そもそも、弦楽四重奏曲とは?音楽評論家の井上太郎氏は、弦楽四重奏を「弦楽器だけで編成された交響曲」と形容しています。弦楽四重奏曲の音楽構成は交響曲のそれに極めて似ています。というのも、およそ交響曲の基本形は、第1楽章にソナタ形式の楽章があり、第2楽章に緩徐楽章、第3楽章にメヌエットやスケルツォのような舞踏楽章、そして急速なフィナーレ楽章で全曲を締めます。弦楽四重奏もまた同じ構成をとることが多くあります。
交響曲との最大の違いは、それが4人の弦楽奏者によって演奏される、というところです。2台のヴァイオリンとヴィオラ、チェロ。同質の音色の、4つの楽器のアンサンブルです。いろいろな音色の集合体である華やかなオーケストラとは対極にあるような渋い世界に思えます。しかし、弦楽四重奏曲は、同質楽器のアンサンブルであるがゆえに、音楽の骨格を純粋に楽しむことができます。そして、この限られた音色の中での表現の多彩さが楽しめる、音楽の究極の形と言えるでしょう。
弦楽四重奏曲の魅力
弦楽四重奏曲と交響曲は異母兄弟!?
マリアヒルフのバロック教会(ウィーン)の近くにあるハイドン像
弦楽四重奏曲と交響曲は、その歴史を見ても、多くの共通点があります。ハイドンはしばしば "弦楽四重奏曲の父" と呼ばれることがありますが、それ以前にも弦楽四重奏曲はありました。18世紀前半にその走りが見られ、その頃はまだ "弦楽四重奏曲" とは呼ばれておらず、“ディヴェルティメント”などとして作曲されていました。ディヴェルティメントとは、日本語では“嬉遊曲”と訳され、明るく気楽な雰囲気をもった曲調で、楽器編成は特に指定がありません。三重奏も小規模なオーケストラも“ディヴェルティメント”で、弦楽四重奏曲も、弦楽器4人による "ディヴェルティメント" だったわけです。こうした黎明期に活躍していたイタリアの作曲家、ジョバンニ・バッティスタ・サンマルティーニは“交響曲の真の父”と呼ばれていますが、実は "弦楽四重奏曲の真の父" でもあり、大きな活躍をしています。その後、この編成の楽曲は、ハイドンなど後輩の作曲家のもとで多く作曲され、“弦楽四重奏曲”という一つの型として成立しました。
弦楽四重奏曲と交響曲、その2つの音楽は18世紀頃に生まれ、同じ“真の父”を持ち、そして新しい“父”であるハイドンのもとで一つの型として完成したのです。それらはベートーヴェンが芸術的に頂点へと導き、その後、その巨大な壁を意識しつつ多様化していきました。いわばこれらの分野は、異母兄弟と言えるかもしれません。