<12月13日 神奈川・横浜みなとみらいホール>「現代音楽」という単語を聞いて、聴いてみたい!と目を輝かせる人は正直少ない。「難解」「何を聴いていいのか分からない」というイメージが先行しがちな現代音楽であるが、バッハだってモーツァルトだってベートーヴェンだってその当時は現代作曲家だったのだ。今では傑作と称される作品であっても、初演時は難解すぎて分からないとけなされたエピソードを持つ作品は枚挙にいとまがない。
今年の「Just Composed in Yokohama~現代作曲家シリーズ~」は「作曲家の革新性」をテーマに、バッハから生み出されたばかりの初演作品まで 6 作品を取り上げる。プログラムは 1963 年に作曲されたシュニトケのヴァイオリンソナタに始まり、バッハ、2つの委嘱作品、2016年に書かれたナッセン作品と進み、1963 年に作曲されたタンスマンの幻想曲でしめくくられる。
1963 年当時、シュニトケとタンスマンは対極ともいえる環境に身をおいていた。両者の作品がプログラムの最初と最後に配置されることで、作曲家のバックボーンや時代背景による世界観の違いが際立つ構成になっているのは、なんとも心にくい演出である。両作品の間に並ぶのはいずれも革新的な作品たちだ。250年前には難解な現代音楽だったであろうバッハの、チェンバロとヴァイオリンのためのソナタ。旋律楽器と鍵盤楽器が対等な、それまでにないスタイルで書かれており、その意味で革新的な作品だったに違いない。ナッセンの「ヴァイオリンとピアノのための《反射》」では、音の反射をテーマに叙情的な世界が繰り広げられる。他にも、委嘱作品には2015年に本シリーズ公演で発表した弦楽四重奏曲をヴァイオリンとピアノのための作品へ生まれ変わらせ、ピアノは作曲者本人が務める狭間作品や、1606 年に書かれた音楽理論書に示された「良い音楽の条件」から採った3つのフレーズを各曲のタイトルに掲げた稲森作品も。1963 年を軸として過去や未来を縦横無尽に駆け巡るような構成となっている点でも、非常に興味深いプログラムである。
演奏は近年注目を集めるヴァイオリンの山根一仁とピアノの阪田知樹。いずれも国際的に活躍するクラシック音楽界の俊英たちである。傑作は秀逸な演奏家によってさらにその輝きを増す。ふたりの若き演奏家たちがこれらの作品からどのような魅力を引き出し、彼らの感性と作品がどのような化学反応を起こすのか。現代音楽の演奏会は傑作の誕生に立ち会う歴史的な瞬間なのだ。
(文・尾崎羽奈)
公演名 | Just Composed 2020 Winter in Yokohama ―現代作曲家シリーズ―「時代を超える革新」 |
---|---|
日時・会場 | 2020年12 月 13 日(日)17:00 開演(16:30 開場) 横浜みなとみらいホール 小ホール |
出演者 | 山根一仁(ヴァイオリン) 阪田知樹(ピアノ) 挾間美帆(ピアノ)* |
プログラム | シュニトケ:ヴァイオリン・ソナタ第 1 番(1963 年作曲) J. S. バッハ:ヴァイオリン・ソナタ第 4 番 ハ短調 BWV 1017 挾間美帆:CHIMERA(Just Composed 2015 委嘱作品/2020 Winter 編曲委嘱作品|初演)* 稲森安太己:Motus intervallorum(Just Composed 2020 Winter 委嘱作品|初演) ナッセン:ヴァイオリンとピアノのための《反射》(2016 年作曲) タンスマン:ヴァイオリンとピアノの幻想曲(1963 年作曲) |
料金 | 料金:全席自由(税込) 一般 3,000 円 学生 1,500 円 |
選定委員 | 池辺晋一郎(作曲家) 白石美雪(音楽学者) 山根一仁(ヴァイオリン) |
お問い合わせ・詳細 | 詳細はこちらから お問合せ:横浜みなとみらいホールチケットセンター 電話 045-682-2000(休館日除く 10:00-17:00) |
■プロフィール
山根一仁(やまね・かずひと/ヴァイオリン)
1995 年生まれ。第 79 回日本音楽コンクール第 1 位。岩谷賞(聴衆賞)など副賞の他、全部門を通じて最も印象的な演奏、作品に贈られる増沢賞も最年少受賞。中学生の 1位は 26 年ぶりの快挙。これまでにバーミンガム市交響楽団、ミュンヘン交響楽団、プラハ=カメラータ、NHK 交響楽団をはじめ国内外のオーケストラと共演を重ねる。ソロリサイタルの他に室内楽ではベルリンフィル五重奏団、P. ウィスペルウェイ、N. メンケマイヤー等と共演、名手からの信頼も厚い。テレビ、ラジオでは NHK『ららら♪クラシック』、『クラシック倶楽部』、NHKFM『名曲リサイタル』、TV 朝日『題名のない音楽会』等に多数出演している。横浜文化賞文化芸術奨励賞(最年少)、岩谷時子音楽財団Foundation for Youth 賞、青山音楽賞新人賞、出光音楽賞、ホテルオークラ賞等受賞。明治安田クオリティオブライフ文化財団奨学生。現在、ドイツ国立ミュンヘン音楽大学在籍クリストフ・ポッペン氏に師事。
オフィシャル・ホームページ
阪田知樹(さかた・ともき/ピアノ)
2016 年フランツ・リスト国際ピアノコンクール(ハンガリー・ブダペスト)第 1 位、併せて 6 つの特別賞受賞。コンクール史上、アジア人男性ピアニスト初優勝の快挙。東京藝術大学を経て、ハノーファー音楽演劇メディア大学に特別首席入学、現在、同大学ソリスト課程ピアノ科に在籍。19 歳時に、第 14 回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールにて最年少入賞。クリーヴランド国際ピアノコンクールにてモーツァルト演奏における特別賞受賞。国内外問わず数多くの指揮者、オーケストラと共演を重ねるほか、室内楽奏者としても活躍。2020 年 3 月に世界初録音を含む交響曲、協奏曲、オペラ、自身の編曲による歌曲などピアノの限界に挑んだアルバムをリリース。(公財)江副記念リクルート財団奨学生、(公財)ロームミュージックファンデーション奨学生。2017 年横浜文化賞文化・芸術奨励賞受賞。
稲森安太己(いなもり・やすたき/作曲)
1978 年東京生まれ。東京学芸大学にて作曲を山内雅弘氏に、ケルン音楽大学にて作曲をミヒャエル・バイル、ヨハネス・シェルホルンの両氏に師事。2009 年東京学芸大学大学院修了、2011 年ケルン音楽大学コンツェルトエグザメン課程修了(器楽作曲)、2013 年同大学大学院修了(電子音楽作曲)。作品は西ドイツ放送交響楽団、ギュルツェニヒ管弦楽団、ブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団、新日本フィルハーモニー管弦楽団等の演奏団体によってドイツ、イタリア、アメリカ、ベルギー、日本ほかの国で演奏されている。2007 年日本音楽コンクール第 1 位、2011 年ベルント・アロイス・ツィンマーマン奨学金賞、2019 年芥川也寸志サントリー作曲賞ほか受賞多数。
挾間美帆(はざま・みほ/作曲・ピアノ)
国立音楽大学卒業。マンハッタン音楽院大学院修了。山下洋輔、坂本龍一、NHK 交響楽団、ヤマハ吹奏楽団などに作編曲作品を提供。2012 年『ジャーニー・トゥ・ジャーニー』でジャズ作曲家としてメジャー・デビュー。2016 年に米ダウンビート誌「未来を担う 25 人のジャズアーティスト」、2019 年にはニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人 100」に選ばれる。自身のジャズ室内楽団「m_unit」のアルバム『ダンサー・イン・ノーホエア』は、2019 年ニューヨーク・タイムズ「ジャズ・アルバム・ベストテン」選出、2020 年米グラミー賞ラージ・ジャズ・アンサンンブル部門ノミネート。2014 年、第 24 回出光音楽賞受賞。シエナ・ウインド・オーケストラのコンポーザー・イン・レジデンス、デンマーク放送ビッグバンド首席指揮者。