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HOMEインタビュー「好き」と「直感」を大切に挑むピアニスト 亀井聖矢
インタビュー2024.3.18

「好き」と「直感」を大切に挑むピアニスト 亀井聖矢

引用
2022年11月、ロン=ティボー国際音楽コンクールにて第1位を受賞、併せて「聴衆賞」「評論家賞」のふたつの特別賞を受賞し、若手トップピアニストへの仲間入りをした亀井聖矢さん。高校生のときには前例のない飛び級進学をし、直後にふたつの老舗国内コンクールで第1位を獲得するなど、たびたびクラシック音楽界を沸かせています。 ピアノとの出会いや幼少期の音楽環境、そして現在の留学先であるドイツでの生活や演奏活動まで、多くのお話をうかがいました。

「弾きたい」と思った曲を楽しく弾ける環境

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3歳ごろ、自宅にて
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小学校2年生で受けたコンクール
―― 4歳からピアノを始めたそうですが、ご両親が音楽をされていたなどのきっかけがあったのでしょうか?両親はともに音楽を勉強していた人ではありません。ただ、祖母がクラシック音楽好きで、その影響を受けた母が名曲集のCDをよく流していました。家には88鍵無いような小さい電子キーボードがあって、幼稚園で聴いた歌を真似して遊びながら弾いていたそうです。それを見た両親が、ピアノを習わせてみようかなと思ったのがきっかけです。そのまま小学校を卒業するまで、自宅の近所の先生に習っていました。
―― YouTubeにアップされている小学生のときの演奏を拝見しましたが、その時点ですでに《ラ・カンパネラ》や《メフィスト・ワルツ》第1番の〈村の居酒屋での踊り〉を弾かれていて度肝を抜かれました。習いに来た近所の子がこのレベルだったら、先生も驚かれたのではないでしょうか。僕が弾きたいと思った曲を弾かせてくれる先生だったので、難易度の高い曲でもちゃんとそれを尊重してくださったんです。だから楽しくて続けられたのだと思います。とても良い環境でした。
―― その後、東京の音大付属高校や藝高への進学も視野にあったのですか?いえ、まったくなかったです。本当にぜんぜん考えませんでした。ひとりで東京に出ることが頭になくって……。地元愛知県の高校に進学するつもりで、実は普通科に行くかどうかも悩んでいましたが、杉浦日出夫先生に習いたいと思い、結果的には音楽科を選びました。

前代未聞の飛び級進学と、2度の栄誉

―― 当時非常に話題になりましたが、亀井さんは高校2年生のときに飛び入学特待生として桐朋学園大学に入学されていますね。 高校1年生で全日本学生音楽コンクールを受けたんですが(※第1位)、当時の桐朋学園大学の学長先生がそのときの演奏を聴いていて、「飛び級という制度を作ろうと思うんだけど、ぜひ来てくれないか」と直接オファーをいただきました。 正直、前例もない話ですし、上手くいくのかもわからないのでかなり悩みました。通っていた高校は公立高校なのでそれに対応するカリキュラムや特例もなく、2年生で退学することになります。そんななか背中を押してくださったのが恩師の杉浦先生です。「こんな話はめったにないし、すごい名誉だよ。ありがたい話だからぜひ受けなさい」と言葉をいただき、飛び級で進学することを決心しました。
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日本音楽コンクールにて、恩師の杉浦先生と
―― 前代未聞ですものね。そして大学へ入学してすぐに、ピティナ特級グランプリと日本音楽コンクールでの栄誉が待っています。受験もそんな感じだったのでドタバタと進み、実感がないなか大学生活が始まりました。ひとり暮らしも初めてですし、本当に目まぐるしい日々でした。新しい環境で新しい先生のレッスンが始まって、もうバタバタで、コンクールは急ピッチでギリギリ間に合わせたものだったんです(笑)。 でもあのときに弾いたサン=サーンスの《ピアノ協奏曲第5番》は、人生を変える1曲になりましたね。
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©Photo by Ralph Lauer
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ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールにて
―― のちの2022年11月、ロン=ティボー国際音楽コンクールで第1位と「聴衆賞」「評論家賞」を受賞した作品でもありますね。演奏される機会が少ない印象の作品ですが、こちらを選んだ理由は?当時ピティナと日本音コンと、実はロン=ティボーも申し込んでいました。ロン=ティボーって、ファイナルの課題曲が6曲くらいしかないんです。バルトークやプロコフィエフなど、当時の僕にとっては渋めの曲が多いなか、ひと目惚れならぬ“ひと耳惚れ”したのが、あのサン=サーンスの第5番。 当時は「一気にコンクール3つ受ける!」という意気込みで選んだ作品でしたが、その年のロン=ティボーでは落ちてしまいました。それでも2022年の結果につながったので、あのとき落ちたことにも、この曲を選んだことにも意味があったのかなと思っています。

新たな環境での学びと挑戦

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©︎Corentin Schimel
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ロン=ティボー国際音楽コンクールにて
―― 現在、ドイツのカールスルーエ音楽大学に留学されています。さまざまな選択肢の中からこの学校を選んだ理由を教えてください。児玉桃先生のレッスンを受けて、それが僕にとって非常に新鮮だったんです。ご自身も第一線で演奏活動をされている方なので、自分の演奏で気になっている部分に対して、こう、かゆいところに手が届くようなレッスンをしてくださる先生です。その児玉先生がカールスルーエ音楽大学で教鞭を執り始めたということで、ドイツへ行く決心をしました。 児玉先生はご自身が持っているものを全力で教え、与えてくださる先生です。 今はまだドイツへ行ったばかりなので、基本的な解釈の仕方や取り組み方を学んで、日々吸収している段階です。留学の第一弾のステップとして、とても熱心に見てくださる先生のもとで勉強ができて、新しい土地の空気を吸って、たくさんのコンサートを聴きに行けて……すごくいい環境だなと思っています。
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カールスルーエ音楽大学にて
―― プライベートでドイツ観光などはされましたか?温泉地として有名なバーデン=バーデンが近いので、コンサートで足を運びました。パリやベルリンとは違う、落ち着いた、ゆったりとした時間が流れている場所で居心地がよかったです。
―― 直近のコンクールも考えていらっしゃいますか? 特にショパン国際ピアノコンクールは来年2025年に次回を控えています。2025年、大きなコンクールがギュッと詰まっているんですよね。続々と課題曲も発表されていますが、どこに対して焦点を定めるかはまだ悩んでいます。でも、いま一番弾いているのは実はショパンです。
―― それはそれは……期待してしまいますね! ほかのコンクールの準備も一緒に進めながら考えられるのでしょうか。そうですね、まだ絞らずに進めています。申し込みの期限がもう少しあるので、そこまでにちゃんと考えて全体的にレベルアップできるよう勉強していくつもりです。
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カールスルーエ城/カール・フリードリヒ記念碑の前にて
―― 楽しみにしております。ところで現在ショパンに力を入れているとのことですが、以前インタビューで「ショパンには距離を感じている」とおっしゃっていたのを拝見しました。なにか感じ方が変わるきっかけがあったのでしょうか。まだまだショパンのことはわかっていませんが、ショパンってやっぱりいい曲ばかりじゃないですか(笑)。聴けば聴くほど天才だなと思うフレーズがたくさん出てきます。耳で聴いても曲の良さを感じますが、譜面と向き合っていざ分析していくと、見えないところでもポイントごとに要素がたくさん入っていることがわかって、それらをきちんとつなげることができないとちゃんとした音楽にならないんです。 リズム・メロディー・ハーモニー・フレージング、どれもごまかすことができない作曲家がショパン。その曲を仕上げるタイミングを決めたら、どんなプロセスを経て、何カ月前までにテクニック的な部分を完成させ、方向性を決めて音色を作ることを考えて、最終的に曲に対する自分のモチベーションを高めていくタイミングを確立させなければいけません。 それがまだ確立できていない部分があるので、まだショパンは弾いていて自分の中での乖離があるなと感じています。だけどやっぱり好きな気持ちが大きいので、自分が追い求めるものを表現できるように勉強しているところです。 留学して新たにレッスンを受けていく中で、その壁にぶち当たっていることを日々感じています。ショパンの本当の難しさに気付いたというか……。それに打ち勝って、自分の個性として出していけるか、いままさに戦っているところです。

音楽の喜びと共に生きたい

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©︎Junichiro Matsuo
―― 初めて行ったコンサートは覚えていますか?実は覚えていなくて……。僕、コンサートで割とすぐに寝ちゃう子どもだったんです。拍手で起きるみたいな(笑)。 ただ、小学校のときに児玉先生のコンサートに行ったことは覚えています。もちろんそのころは先生に教わるなんてまったく考えていませんでしたが、ホールの支配人の方が「ピアノをがんばっている小さい男の子が来ている」と、僕を児玉先生に紹介してくださったんです。それを先生が覚えていてくださって、「実はあのときのちっちゃい男の子です」という、ご縁話があったりします(笑)。 ちなみにそのホールともすてきなご縁が続いていて、子どものころから実家で使っていたピアノを寄付しました。練習室で使えるそうなので、たくさん弾いてもらえたらいいなぁ。
―― これまでに足を運んだコンサートで印象に残っているものはありますか? あります、あります。まさについこの間なのですがドイツに行ってすぐ、バーデン=バーデンにグリゴリー・ソコロフが来まして。ソコロフの生のエネルギーを間近で浴びて、衝撃を受けました。音色に説得力があって、すっごい濃厚な意志をもって飛んでくるんです。繊細な音でも、重厚で激しい音でも、すべての音に凝縮された魂が入り込んでいて。構成とか解釈とか、なんだかそういうものを全部とおりこして、もっと圧倒的なエネルギーというか……。 表現が難しいのですが、次元が違う猛烈な力強さに圧倒されました。あこがれです。あ、さすがの僕も寝ませんでしたよ(笑)。
―― ほかにもあこがれる演奏家はいますか?特定の演奏家を聴き続けることはあまりなくて、なるべく多くの方の演奏を聴くようにしています。 解釈や、音楽の心臓部みたいなところをとらえられるように意識して聴いていますが、そういうものをまったく抜きにして「こういう演奏にあこがれるな」と思うのは、マルタ・アルゲリッチですね。ピアノを弾くことが楽しそうに見えますし、いろんな音楽を自由に奏でて、とても自由な即興的アイデアにあふれていて、音楽の喜びと共に生きている感じがします。 あれだけの強靭なタッチとテクニックを、あの年齢まで維持し続けることは生半可なことではありませんし、音の説得力があるピアニストですよね。ご本人はいろいろ考えた上でピアノに向かっていらっしゃるのでしょうが、それを本番では一切表に出さず、自由に弾いているように聴衆へ届けてくれるって、演奏家として理想的です。僕もそんなおじいちゃんになりたい。純粋に音楽家としてあこがれる姿です。

「一番いい!」と思ったものをそろえた全国ツアー

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©︎Junichiro Matsuo
―― ここからは2024年7月を皮切りに始まるツアーについておうかがいします。プログラムもバッハから現在力を入れているショパン、そしてプロコフィエフまで、非常にバラエティに富んだ内容です。最近はショパンに前向きに取り組んでいるので、プログラムの中心に入れたかったんです。たくさんの作品を聴いて、「あっいいな」と思った作品がマズルカのOp.17でした。「勉強しなければいけないから」などは関係なく、本当に自分が弾きたい、好きだなと思う曲を選んでいます。 ほかのプログラムも、ショパンを勉強している中で「あ、この曲はベートーヴェンから影響を受けているな」と気が付き、そのベートーヴェンの作品を見ると「これはバッハの作品の影響か……」と、連鎖している作品が多いです。 あとは、初めて僕の演奏を聴きに来てくださった方が何を聴きたいかなと考えたときに、華々しい作品がいいなと思って、幕開けにバッハの《イタリア協奏曲 BWV971》を入れました。プロコフィエフの《戦争ソナタ》はストレスなく弾ける作品で、自分の個性を音色にぶつけられる1曲です。今回のツアーは初披露の曲が多く、新しい挑戦をしていきたいという気持ちを込めたプログラムになっています。
―― 亀井さんの演奏を初めて聴く方も、ずっと聴いている方も楽しめそうですね。 「一番いい!」と思ったものをそろえたので、どの曲も楽しんでいただけるコンサートになると思います!
―― 北は札幌から、南は沖縄まで回られるんですね。 実は人生初の沖縄なんです。しかも真夏で、沖縄公演は千秋楽なのでそのまま海に飛び込んで夏休みを満喫したいと思います(笑)。
―― お客さんに音楽を届けるにあたって、一番心掛けていることはなんでしょうか?そのときどきでマイブームみたいなものがあって、それが音色(おんしょく)だったり内声の聴かせ方だったり、時と場合で結構変わります。いま現在の時点だと、曲に対する「好き」という気持ちや、その曲のどういった部分に心が震えたかなどの直感をとても大切にしていて、それらを何十倍にもした熱量に変えてお客さんに共有したいという気持ちが強くあります。そのために、インスピレーションや弾きたいという衝動を高めていくことが大事だなと感じています。
―― ありがとうございました。最後に、ららら♪クラブの読者へ向けてメッセージをお願いします。自分の好きな音楽を共有していくということが本当に楽しくて、僕の生きがいです。全国各地へおうかがいしますので、ぜひ一緒にその楽しさを共有しに来ていただけたらうれしいです。“生の熱量”を一緒に感じませんか? (取材・文 浅井彩)
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©︎Junichiro Matsuo

亀井聖矢 (かめいまさや) 2022年、ロン=ティボー国際音楽コンクールにて第1位を受賞。併せて「聴衆賞」「評論家賞」の2つの特別賞を受賞。
2001年生まれ。4歳よりピアノを始める。2019年、第88回日本音楽コンクールピアノ部門第1位、および聴衆賞受賞。同年、第43回ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ、および聴衆賞受賞。2022年、マリア・カナルス国際ピアノコンクール第3位受賞。ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールセミファイナリスト。
ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団、NHK交響楽団、読売日本交響楽団、東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、オーケストラ・アンサンブル金沢、大阪交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、京都市交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、札幌交響楽団などと共演。
「情熱大陸」「世界一受けたい授業」「日曜日の初耳学」「題名のない音楽会」などメディア出演も多数。
愛知県立明和高等学校音楽科を経て、飛び入学特待生として桐朋学園大学に入学し、2023年3月に同大学を首席で卒業。2023年には、文化庁長官表彰(国際芸術部門)、出光音楽賞、岐阜県芸術文化奨励賞、愛知県芸術文化選奨文化新人賞を受賞。
2021~2022年度公益財団法人ロームミュージックファンデーション奨学生。第51回公益財団法人江副記念リクルート財団奨学生。2023年度江崎スカラシップ奨学生。
現在、カールスルーエ音楽大学、桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコースに在籍中。これまでに、青木真由子、杉浦日出夫、上野久子、岡本美智子、長谷正一、児玉桃の各氏に師事。作曲を鈴木輝昭氏に師事。

亀井聖矢 オフィシャルサイト
亀井聖矢 公式X(旧Twitter)
亀井聖矢 Instagram
亀井聖矢 公式YouTubeチャンネル

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