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あこがれを形にしていく若きチェリスト、水野優也

 チェロ界の若き新星、水野優也がデビューアルバムをリリースし、話題を集めています。第89回日本音楽コンクールのチェロ部門にて第1位を受賞、そして各賞を総なめにしたところから始まったそのキャリアは、まさに絶好調。 若い感性で次々と新しいことに挑戦する水野さん。チェロとの出会いから留学先でのできごと、あこがれの人に師事すること、さらには念願のデビューアルバムまで、さまざまなお話を伺いました。

ひょんなことからチェロの道へ

―― 水野さんのチェロとの出会いを教えてください。

僕が6歳のころに母が近所の音楽教室に連れて行ってくれました。
同じ幼稚園に通っていた友達がヴァイオリンを習っていたので、その教室を紹介してくれたのですが、僕は木曜日しか通えないという事情がありまして。その音楽教室では木曜日はチェロのクラスを開催していたので、「では体験レッスンを受けてみよう」ということになり、それがチェロに触れるきっかけとなりました。
体験レッスンを受けてみて、僕の中でチェロに興味が出てきて、自分でやりたいと言って始めました。

―― 偶然の出会いだったのですね。ご両親は音楽に親しまれていたのですか?

母はピアノと声楽をやっていました。その母がチェロの音が好きだったということにも影響されたかもしれません。
サン=サーンス《動物の謝肉祭》の〈白鳥〉が好きなので、チェロをやるからにはそれを弾いてほしいとも言われていましたね。〈白鳥〉はチェロを始めて3年目くらいで、使用していた教本の中に収められていたので演奏しました。
幼少期、最初の発表会
―― チェリストを目指そうと思ったのはいつごろだったのでしょうか?

中学2年生の秋ですね。この時期にふたつの印象的なできごとがありました。
まずひとつめは、東京交響楽団の「こども定期演奏会」に参加したことです。これは小学生や中学生がプロオーケストラに交じって演奏するというプロジェクトで、この時に初めてプロの音を肌で感じて、圧倒されました。この時の経験で音楽の道へ進みたいという気持ちを強くしました。
もうひとつは日本音楽コンクールのチェロ部門本選を聴きに行ったことです。出場者の方々が自分のはるか上の次元の音楽を奏でる姿に衝撃を受けまして、この時の体験は僕を音楽の道へ導いていってくれたように思います。

―― 当時憧れていた演奏家はいましたか?

当時はまだ具体的に誰が好き、というのはなかったのですが、音楽高校に入ったあたりからジャン=ギアン・ケラスに引き付けられました。今でも彼が演奏することがあれば、日本でもヨーロッパでもできるだけ聴きにいっています。

―― ケラスさんのチェロのどのあたりに魅力を感じておられますか?

まずテクニック的な難しさをまったく感じさせない余裕感と音に品があることですね。それと、弾いていらっしゃる姿がかっこいいです。

―― チェリストという職業が現実的になってきたのはいつごろだったのでしょうか?

高校3年生のときに東京音楽コンクールで第1位をいただいたことをきっかけに、いろんなコンサートの出演機会を得ることが増えました。協奏曲のソリストの仕事もこのコンクールでの優勝がきっかけです。
このころからプロとしての責任感を強く持つようになったように思います。

マンネリを避ける向上心

―― お客さまの前で演奏するときに心がけていることはありますか?

今年の夏休みは非常に忙しくて、コンサートに次ぐコンサートというスケジュールだったのですが、そういうときこそ意識してそれぞれの作品に新鮮な気持ちで挑むようにしています。
たとえば、以前に演奏したことがある作品なら「以前仕上げた水準まで持っていけばいいや」とか、「最低限これとあれをやって……」といった感じで、流れ作業のように練習して披露してしまう、ということだけは避けたいという思いでいます。
同じ作品を何回弾いても、その作品を初めて演奏するときのように、本当にすばらしいと感じながら演奏できるように心がけています。そのためにときどきまっさらな譜面を買い直すこともありますよ。

―― 慢心せずに、マンネリせずに、どこまでも上を目指していこうという姿勢があのすばらしい演奏を生んでいるのですね。

印象に残ったコンサート

―― これまでのコンサートで、もっとも印象に残っているものを教えてください。

札幌で開催されたリスト音楽院セミナーに参加したとき、講師によるコンサートにてミクローシュ・ペレーニ先生が演奏したバッハの《無伴奏チェロ組曲》が今でも印象に残っています。
舞台の真ん中にぽつんとひとり座って、スポットライトだけが当たっていて、そこで黙々と演奏されるバッハは圧倒的な求心力がありました。自分の体がその光に吸い寄せられるような感覚があって、息もできず、まばたきする間もないような25分間の演奏は鮮烈に記憶に残っています。
ハンガリー、ミクローシュ・ペレーニ先生のレッスン
―― 初めて聴きに行ったコンサートは覚えていますか?

スティーヴン・イッサーリスが演奏したハイドンのチェロ協奏曲を聴きに行ったのが、覚えている中では一番古い記憶です。チェロを始めて3年くらいのときだったかと思います。
CDを購入してサインしてもらって、握手もしてもらったのを覚えています。今でもそのCDは家にありますよ。

留学で学んだこと

―― 水野さんはハンガリー国立リスト・フェレンツ音楽大学ではミクローシュ・ペレーニ先生に師事されたあと、現在はオーストリア国立ザルツブルク・モーツァルテウム大学にてクレメンス・ハーゲン先生のもとで研鑽を積まれています。おふたりの先生にはどのような経緯で弟子入りすることになったのでしょうか。

ペレーニ先生との出会いは、先ほどお話した札幌で開催されているリスト音楽院セミナーです。そこに3回ほど参加してペレーニ先生の指導を受けたのですが、セミナーが終わったときに先生の指導を継続して受けたいと直接お伝えし、リスト音楽院の入学試験を受けて合格し、留学することが決まりました。

ハーゲン先生との出会いですが、もともと桐朋学園にいたころから弦楽四重奏が好きで、かなり熱心に取り組んでいました。そのときにハーゲン弦楽四重奏団の演奏をよく聴いていました。クレメンス・ハーゲン先生の演奏は特に好きで、ずっと頭の片隅にあるという状態です。ペレーニ先生に4年間習って、そろそろ次の先生に習いたいと考えていた時に、ハーゲン先生に習ってみたいという思いが湧きあがってきました。
以前ハーゲン先生に習っていた日本人の方にもお話をうかがったりして情報を集めたのちに、大学のホームページに掲載されているメールアドレスから直接メッセージを送りました。「一度レッスンに来なさい」という返信があったので、ザルツブルクまで会いに行き、その後入試を受けて無事に合格して、今に至ります。

モーツァルテウム大学では、クレメンス・ハーゲン先生のレッスン以外に、ちがう先生のクラスのレッスンも積極的に聴講しています。弦楽四重奏の勉強も続けていて、ヴェロニカ・ハーゲン先生(ハーゲン弦楽四重奏団 ヴィオラ奏者)のレッスンを受けたりもしています。
ザルツブルクにて、クレメンス・ハーゲン先生と
―― ヨーロッパ旅行などはされましたか?

今年の初夏にスペインのマヨルカ島に行きました。ショパンがジョルジュ・サンドと一緒に半年ほど住んでいた場所なのですが、海や自然が美しく、すばらしい場所でした。
印象的だったのは、バカンスでこの島を訪れているヨーロッパ人たちが“休み”を楽しんでいる姿です。きっと日本人だったら、いろいろ観光して、あれこれ食べに行ってと計画して回ると思うんですが、ヨーロッパの方々は本当に何もせずにビール飲んで寝る、というふうに徹底的に休むんですね。
そうした感覚が新鮮で、いいなと思いながら僕もマヨルカ滞在を楽しみました。
日本人の友人たちと訪れたので、僕たちは日本人らしくいろんなところにいって、名物を食べたり海で泳いだりしていましたが(笑)、ヨーロッパ人たちのオンとオフの切り替えという精神は今後見習っていきたいなと思いました。

デビューアルバム『コダーイ/無伴奏チェロ・ソナタ&ショパン/チェロ・ソナタ』について

―― コダーイの無伴奏チェロ・ソナタを選曲された理由を教えてください。

4年間のハンガリー留学がちょうど終わるタイミングで、今回のレコーディングがありました。この留学で何を学んだのかということが出せたらいいなと思いまして、一番思い出があり、一番勉強したコダーイの無伴奏チェロ・ソナタを選びました。
この作品はペレーニ先生の十八番でもありますし、チェロの無伴奏作品の中でも一番の傑作です。なによりテクニック的に難しいですし、聴きごたえもあります。
またペレーニ先生自身がコダーイから直接アドバイスを受けたこともあるとのことで、僕はコダーイの孫弟子という立場で音に残せたらいいなという思いがあって選びました。

―― ペレーニ先生のレッスンはかなり受けられたのですか?

はい、これがもっともレッスンを受けた作品ですね。
ペレーニ先生のレッスンは、彼がこの作品をどう解釈しているのかということを教えてくれるものなのですが、レッスンの8割くらいは先生が演奏してくれるんです。レッスンが彼の演奏会みたいで、その弾いている姿を見て学ぶという時間でした。
そしてコダーイはこう言っていたとか、ここはこうあるべきだなど、かなり細かいところまで教えてくれました。
もっとも、先生の言うとおりに弾かないといけないという訳ではないのですが、先生が考えていることを細かくイチから教えてくれるというレッスンでしたね。
ハンガリーのスピリットというものを消化して、自分なりに表現したいという気持ちがあります。


―― 水野さんからみたハンガリーのスピリットというのはどのようなものですか?

コダーイの無伴奏チェロ・ソナタは一見情熱的でエキサイトな作品に見えがちですが、実はそうではなくて、内に秘めた情熱や感情が込められているように感じます。これは音楽だけでなく、ハンガリー人にも感じることです。どこか日本人に共通しているようにも感じます。

―― レッスンではどの言語を使っていたのですか?

英語ですね。先生はすごく英語が流暢というわけでもないのですが、すっと入ってくる話し方だったので、僕も日本語を話すような感覚でコミュニケーションを取れていました。
ペレーニ先生は口下手なところがありまして、僕は先生の音による表現に説得力を感じます。先生が言葉で説明しようとしてくださっても僕がよく理解できないときは、弾いてくださいとお願いすることもよくありました。

―― 先ほどレッスンの8割は先生が弾いていたとおっしゃっていましたが、水野さんがそういう風に誘導したところもあるのでしょうか?

それもあるかもしれません(笑)。
弾いてくださったときに、すごい! すごい! というふうに反応すると、先生も乗ってきて、さらに弾いてくださるということはありましたね。

「ショパンはきっとチェロが好きだったはず」

―― 続いて、ショパンのチェロ・ソナタを選ばれた理由を教えてください。

音楽高校に入って間もないころに、YouTubeでこの作品と出会いました。その時からずっと弾きたいと憧れていて、大学生のときに弾く機会を得ました。そして去年の夏にピアニストの反田恭平さんとリサイタルで共演する機会をいただいたので、反田さんとぜひショパンを弾きたいと思ってこの作品を選びました。その流れで今回のレコーディングが決まりました。
高校1年生のときから抱いていた目標が、ひとつゴールを迎えたという感覚でいます。

―― ショパンは水野さんにとってはどういう作曲家ですか?

ショパンは圧倒的にピアノ作品が多いですが、ピアノ以外の作品だとチェロのための作品が多いのも特徴です。だからきっとショパンはチェロという楽器が好きだったのだろうなと思っています。
僕自身が、派手な作品よりも詩的で落ち着いた作品が好みなんです。このショパンのチェロ・ソナタの第3楽章は夜落ち着いたときに聴くような雰囲気を感じていて、ショパンのこうしたところが特に好きですね。
実は前回(第18回)のショパン国際ピアノコンクールの3次予選をワルシャワまで聴きに行ったんですよ。3日間行われた3次予選はすべての出場者の演奏を聴いたのですが、まったく飽きませんでした。

―― ショパン・コンクールの現地の雰囲気はどうでしたか?

街全体がコンクールや音楽を楽しんでいる印象がありました。日本だと、コンクールというと「誰が1位なのか」と競う雰囲気が漂うように思いますが、ワルシャワでは純粋に演奏会を楽しんでいる雰囲気があって楽しかったです。

―― ショパン・コンクールのお話が出たので反田さんのことについてもおうかがいします。おふたりの接点はどのようなところから始まったのでしょうか?

母校の桐朋学園の先輩と後輩でした。在学中は特に接点はなかったのですが、反田さんは非常に目立つ存在でしたね。体育祭などで盛り上がっている先輩を、僕は一方的に見ているという関係だったと思います。
その後、「ジャパン・ナショナル・オーケストラ」の前身の「MLMナショナル管弦楽団」が創設されるときに誘っていただいて、現在も所属しています。そこから反田さんとはいろいろ交流することになりました。

―― 反田さんとの印象的なエピソードなどはありますか?

ツアーの空き時間などにサッカーゲームで対戦して盛り上がったりもしています。
音楽的な面では細かいニュアンスなどを相談しなくても最初から最後まで違和感なく通せてしまうので、音楽的に目指す方向性は似ているのかなという印象があります。去年のリサイタル前も、リハーサルする時間はあまりなかったのですが、音楽的な方向性を一致させて演奏できたと思います。一緒に弾いていてとても楽しいと感じますね。
今回反田さんとショパンで共演させていただいたことで、数多くの学びをいただきました。

―― 収録はいかがでしたか?

レコーディングはまだあまり慣れていないので、テイク録りで曲の途中から弾く時、いきなり盛り上がった部分から弾くというのはとても難しかったですね。長時間の録音でもあったのでとても大変でしたが、若さで乗り切りました(笑)。

―― 水野さんはライブと録音ではどちらが好きですか?

どちらにも良さがありますね。
ライブはあとで録音を聴いてみると、こんなことをやっていたのかという驚きがあります。
一方収録は自分の理想が出せるというか、落ち着いて自分のやりたいことを平均的に出せるという良さはあると思います。
すでにもう、ショパンはまた別な演奏ができるという思いもあります。自分の中で時と共に音楽の感じ方や解釈も変わってくるので、そのときの録音が残るというのは怖いことでもあり、その一方で、自身の良い記録なのかもしれません。
録った音源のチェック中

未来へ向けて

―― 今回のアルバムをどう聴いてほしいですか?

僕の中ではこのCDのコンセプトは「夜」なんです。僕自身は寝る前などの落ち着いた時間にCDを聴くことが多いので、今回のCDも落ち着いた時間やリラックスしたいときに聴いてほしいなと思ってます。

―― 今後どんなチェリストになっていきたいですか?

ハーゲン先生に習い始めたことで、弦楽四重奏だけではなくオーケストラで弾いたり、ソリストを務めたりと幅広く活躍する先生の姿に刺激を受けています。
最近オーケストラで弾く機会があったり、弦楽四重奏を勉強したりして、いろいろな可能性が見えてきたので、今は何かに縛られることなく、チェリストとしてマルチに能力を高めていけたらと考えています。
少し前まではソリスト一本で頑張りますと言っていたのですが、今はやはり音楽はひとつには絞れないなと感じています。いろいろなところから刺激を受けて自分の成長につなげて、高めていきたいです。

―― 可能性は無限大ですね。10年後20年後の水野さんがどんなチェリストになっているのか、楽しみにしながら応援していきたいと思います。

(取材・文 尾崎羽奈)

インフォメーション

『コダーイ/無伴奏チェロ・ソナタ&ショパン/チェロ・ソナタ』

曲目
コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ Op.8
ショパン:序奏と華麗なるポロネーズ Op.3
ショパン:チェロ・ソナタ ト短調 Op.65
タイトル CD情報
発売日    2023年8月26日(土)
演奏 [チェロ]水野優也
[ピアノ]反田恭平

今後の公演情報

水野優也 チェロ・リサイタル

日時 12月7日(木) 19:00開演(18:15開場)
会場 紀尾井ホール
出演 [チェロ]水野優也
[ピアノ]鈴木慎崇
プログラム J.S.バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ第2番 ニ長調 BWV1028
プーランク:チェロとピアノのためのソナタ FP143
ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調 Op.19
ほか
チケット 全席指定:S席4,500円 A席3,500円 学生席3,500円
お問い合わせ お問い合わせ    Kトレーディング
TEL:03-6418-1008
詳細 こちらから
水野 優也(Yuya Mizuno)

1998年生まれ、東京都出身。
第89回日本音楽コンクールチェロ部門第1位及び岩谷賞(聴衆賞)、黒栁賞、徳永賞、全部門を通じて最も印象的な演奏に対し贈られる増沢賞を受賞。第13回東京音楽コンクール弦楽部門第1位および聴衆賞、第23回コンセールマロニエ21弦楽器部門第1位、第31回青山音楽賞新人賞など、多くの賞を受賞。ドイツ・ドレスデン音楽祭、リヒテンシュタイン国際音楽アカデミー、草津夏期国際音楽アカデミーなどからスカラシップを得てマスタークラスに参加。
ソリストとして東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、読売日本交響楽団、大阪交響楽団、京都市交響楽団などと共演。パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌(PMF)、武生国際音楽祭、いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭、Music Dialogue、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」、テレビ朝日「題名のない音楽会」、高崎芸術劇場 大友直人Presents T-Shotシリーズ vol.10など、国内外でのリサイタルや室内楽公演への出演など、活発な演奏活動をしている。
2023年8月、NOVA recordより「水野優也×反田恭平 コダーイ/無伴奏チェロ・ソナタ&ショパン/チェロ・ソナタ」でCDデビュー。シャネル・ピグマリオン・デイズ2020/2021参加アーティスト。ピアニスト反田恭平率いるジャパン・ナショナル・オーケストラコアメンバー。
特待生として桐朋学園大学ソリスト・ディプロマ・コース修了、倉田澄子に師事。ハンガリー国立リスト・フェレンツ音楽大学にてミクローシュ・ペレーニに師事。現在、オーストリア国立ザルツブルク・モーツァルテウム大学にてクレメンス・ハーゲンのもとで研鑽を積んでいる。

水野優也 公式X(旧Twitter)
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