昨年、デビュー10周年を迎えた牛田智大さん。2021年のショパン国際コンクールへの出場や、昨秋リリースしたショパン後期の作品によるアルバムなど、これまではショパンの作品を多く演奏してきました。今年3月に東京オペラシティで行なわれるリサイタルは、すべてドイツ語圏の作品によるプログラム。しかも、3曲とも公の場で演奏するのは初めてとのことです。リサイタルについて、お話をうかがいました。
©Ariga Terasawa
――このプログラムのコンセプトを教えてください。
ドイツ語圏を代表する作曲家の若い時期の作品を中心に構成しました。昨年までは、ショパンの晩年の死を意識するような作品が多かったので、今度は若々しいエネルギーに満ちた作品に取り組みたいと思いました。シューベルト、シューマン、ブラームスの20代前半に書いた作品ですから、同年代である自分が演奏することで、なにか特別な意味を加えられたらと思っています。
©Ariga Terasawa
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――ブラームスの音楽って独特ですよね。
音の数が少ないので、ひとつの音が負うメッセージ性はとても強いですし、民族音楽からの影響も大きいので、特徴的なリズムを理解する必要もあります。
かつてMo.プレトニョフにラフマニノフの曲を聴いていただいたとき、最初に言われたのは「音を捨てなさい」ということでした。ロシア作品の多くは必要な音とそうでない音があるという考え方で、音楽にとって重要な音かどうか優先順位をつけて層を作るようにアプローチをします。
それとは対照的に、ドイツの作品ではすべての音に意味があり、まるで歯車のように作品を組み立てる要素になっています。より神経を尖らせて音に意味や哲学などを含めなければいけないので、求められるものがたくさんあります。
――私は子どもの頃、ブラームスの作品があまり好きではなかったのです。他の作曲家の作品よりも色彩が少ないと思っていました。
ブラームスは、カラーリストというよりは、いわゆる日本の墨絵のような淡い音楽で、理解するにはもしかしたら人生経験や高い精神性が必要なのかもしれません。でも、シンフォニーはわかりやすいですよね。私は高校時代にブラームスのシンフォニーが大好きになって……一晩中聴き明かしたこともありました。ピアノ曲を理解できるようになったのはもう少し後のことです。
――リサイタルで取り上げる3人の作曲家は、ピアノ作品やシンフォニーの作曲だけではなく、リート(歌曲)の創作にも積極的でした。牛田さんは、声楽のレッスンを受けたことはありますか?
10代の終わり頃から歌は少し習いました。まったく熱心ではありませんでしたが……大学でソプラノの廣田美穂先生に何度かアドバイスをいただいたこともあります。レッスンの時に傍で歌ってくださる先生の声は鳥肌が立つほどすばらしくて、その後に私が歌うのは本当にお耳汚しで心苦しかったです(苦笑)。
歌を学んで得たものはたくさんあります。音程が変わる時にどれほどのエネルギーをかけなければならないのか……音が上がる時にエネルギーが発生するのは当然ですが、一方で音が下がる時にも非常に神経を使います。フレーズの頂点へ向かうまでももちろん大事だけれど、そこから収束していく、フレーズが閉じるところを大切にしなければならないという経験は、今でもとても役に立っています。
――読者の皆さまに、メッセージをお願いします。
2月から3月にかけての独墺プログラム、若きエネルギーに満ちた作品を皆さまと共有できることを楽しみにしています。ぜひ会場でお会いしましょう!
(取材・文 道下京子)
公演情報
牛田智大 ピアノ・リサイタル
鮮烈なピアニズムから香り立つ馥郁たるファンタジー
日時 | 3月16日(木) 19:00開演(18:20開場) |
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会場 | 東京オペラシティ コンサートホール |
出演 | [ピアノ]牛田 智大 |
プログラム | シューベルト:アレグレット ハ短調 D915、ピアノソナタ第13番 イ長調 D664 Op.120 シューマン:ピアノソナタ第1番 嬰ヘ短調 Op.11 ブラームス:ピアノソナタ第3番 ヘ短調 Op.5 |
チケット | 全席指定 S席6,000円 A席5,000円 B席4,000円 |
詳細 | こちらから |
お問い合わせ | ジャパン・アーツぴあ TEL:0570-00-1212(10:00~16:00) |
牛田智大(Tomoharu Ushida) 2018年11月に開催された第10回浜松国際ピアノコンクールにて、日本人歴代最高第2位、併せてワルシャワ市長賞、聴衆賞を受賞。2019年3月、第29回出光音楽賞受賞。 1999年福島県いわき市生まれ。父親の転勤に伴い生後すぐ上海へ渡り6歳まで育つ。 2012年2月(12歳)、第16回浜松国際ピアノアカデミー・コンクールにて最年少1位受賞。以降、本格的に演奏活動を始める。 2012年3月、クラシックの日本人ピアニストとして最年少12歳で ユニバーサル ミュージックよりCDデビュー。「愛の夢~牛田智大デビュー」(2012年)、「想い出」(2012年)、「献呈~リスト&ショパン名曲集」(2013年)、「トロイメライ~ロマンティック・ピアノ名曲集」(2014年)、「愛の喜び」(2015年)、「展覧会の絵」(2016年)、「ショパン:バラード第1番、24の前奏曲」(2019年)をリリース。2015年「愛の喜び」以降、続けてレコード芸術誌の特選盤に選ばれている。2022年8月、自身初のライブ録音となる「ショパン・リサイタル2022」が発売された。 これまでに、国内の著名な指揮者およびオーケストラと多数共演を重ねたほか、シュテファン・ヴラダー指揮ウィーン室内管弦楽団(2014年)、ミハイル・プレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管弦楽団(2015年/2018年)、小林研一郎指揮ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団(2016年)、ヤツェク・カスプシク指揮ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団(2018年)各日本公演のソリストを務めるなど、全国各地の演奏会で活躍。その音楽性を高く評価され、2019年5月にはミハイル・プレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管弦楽団のロシア公演や、8月にワルシャワ、10月にブリュッセルでのリサイタルに招かれた。 今までに、NHK総合テレビ「プロフェッショナル 仕事の流儀」ほか、様々な番組や媒体でその活動が紹介されている。 2019年に20歳を迎え、これを記念し2020年8月31日に東京・サントリーホールでソロリサイタルを行い大成功を収めた。また2022年3月、デビュー10周年を迎えて開催した記念リサイタルは各地で好評を博した。人気実力とも、若手を代表するピアニストの一人として注目を集めている。 牛田智大 オフィシャル・Facebook 牛田智大 オフィシャル・Twitter 牛田智大 オフィシャル・Instagram