icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc

番組ファンから〜ピアニスト 金子三勇士さん

©Ayako Yamamoto
バルトーク国際ピアノコンクール優勝の他、数々の国際コンクール優勝という華麗な経歴を持つ金子三勇士さん。11歳から5年間、リストが創立したハンガリー国立リスト音楽院大学で学んだ金子さんは、NHK Eテレ「ららら♪クラシック」(2014年5月10日放送)にて、リストの『愛の夢 第3番』を披露。さらに、「らららクラシックコンサートvol.2」(2018年6月5日公演)では、リストの親友であるショパンの3大名曲『革命』『別れの曲』『英雄ポロネーズ』を熱演、観客を魅了しました。

民俗音楽の研究者だった祖母に教えられた音楽の楽しさ

「番組に出演したときは、生演奏をそのまま放送するということで、現場にはなんともいえない緊迫感が漂い、演奏を始める5秒前からのカウントダウンの空気感はひじょうに印象に残っています。その一方で、放映を通して、まだクラシックコンサートに行ったことのない方を含め、たくさんの方々に向けて演奏できるうれしさがありました」 6歳で単身ハンガリーに渡り、バルトーク音楽小学校に入学。11歳で飛び級し、ハンガリー国立リスト音楽院大学に入学し、全課程取得後、東京音楽大学附属高等学校に編入、同大学を首席で卒業同大学院を修了という輝かしい経歴を持つ金子さん。音楽の道に進み、音楽を続けている根底には、6歳までの間に、文字通り、“音”を“楽”しむ時間を過ごした経験があると言う。 「もっとも大きかったのは、ハンガリーの母方の祖母がそばにいてくれたことです。民族音楽の研究者であり、音楽教育が専門だった祖母は、共働きだった両親を助けるために来日して、一緒に暮らしていたのです。毎日歌を歌ったり、音楽的な遊びをしたり、バルトークの子供のための作品集を聴かせてくれたりと、音楽に触れる楽しさを僕に体験させてくれました。それに加え、姉と兄がピアノを習ったものの、ひじょうに怖い先生だったためにとても早いタイミングで断念し、家には誰も使っていないアップライトのピアノが置いてありまして。僕自身は習いに行くことなく、3歳から遊びでピアノを弾き始め、6歳までは、家の中で、本当に好きなように、思うまま、音を楽しむ時間を過ごしていました」 そんな金子さんの感性は、さらに留学先のハンガリーで磨かれていった。 「いろいろな国によって、音楽教育の伝統や価値観、解釈があると思いますが、幸いなことに私のもう一つの祖国であるハンガリーは、音楽教育がとても盛んな国ではあると同時に、技巧的なことを重視するのではなく、まずは、音楽的な心を大切に、自分の個性や感情を音楽で引き出す術をひたすら教えてくれる場所だったんです。例えばショパンの『雨だれ』だったら、この曲は雨のどういう日を表しているか、作曲家はどのような状況で、どんな気持ちでこれを書いたのか。それをイメージしてどういう音に表すか。切ない曲だったら、切ない音色とはそもそも何なのか。3歳からピアノを弾いていたとはいえ、専門家に習っていたわけではない僕の演奏は、当時はプロが聞いたら危なっかしいものだったと思います。しかしハンガリーでも、技巧的なことはもう少し大人になってから学べばいいという考え方だったので、僕は今までやってきたことの延長線上のような感じですんなりハンガリーの教育システムに入ることができました。もちろん10代後半からは、技術の練習をたくさんしなければいけない辛い時期もありましたが、根本的なところで、音楽が大好きでやっていますという気持ちを今も持ち続けられているのは、子供の頃の経験が大きいですね」
©Günter Zorn

各人がそれぞれで見つけてほしいクラシック音楽の魅力

現在、アウトリーチ活動を通しての学校訪問や幼稚園訪問など、子供たちの前での演奏活動にも尽力している金子さんだが、そこには自身の体験から大切にしている金子さんならではのこんなこだわりがある。 「子供たちの前で一番やってはいけないのは、『次は悲しい曲を弾きます』とか『楽しい曲を弾きます』と説明してしまうことです。確かに悲しい作品かもしれないけれど、それを聴いたお子さんによっては、美しいとか、楽しいと感じる子もいますので、こちらから感情の部分を押し付けてはいけないと思っています。同じように、子供向けに演奏スタイルを崩したり、編曲をすることも望ましくないと考えてます。本物の演奏、正当な解釈を届けることがなにより大切です。また子供たちは自分が子供としてみられていることを見抜きますから、音楽においても会話においても、大人と同じように対等にアプローチする事が大事だと思っています」 そんな金子さんにクラシック音楽の魅力を聞いてみると、意外な答えが返ってきた。 「僕は皆さんにそれを見つけていただきたいと思っているんです。人類の歴史上、必要とされないものはあっという間に消えていきますよね。にもかかわらず、クラシック音楽は、300年、400年という歴史の中で消えることなく残っている。楽譜も残っているし、演奏家もたくさんいるし、それを聴こうとする人も今も大勢いる。それはなぜなのか。私たち人間に必要なものがそこに秘められているはず。そういう気持ちで聴くと、ぜったい何かが見つかると思います。僕自身は、クラシック音楽を弾いたり、聴いたりすると、生きていてよかったと喜びを感じるんです。楽しいこと、切ないこと、喜びや苦しみなど、様々な感情を思い出して、自分の過去を振り返ったり、これからを見直していくきっかけになったりする。皆さんにも、クラシック音楽に触れることで、答えを探していただけたらと思います」 デビューから9年、「いろいろなことを経験させていただいて、やっとスタート地点に立てた気がする」と言う金子さんは、今後様々なことに挑戦していきたいと目を輝かす。 「年齢・性別・国籍・宗教関係なく、地球上の人間である以上、音楽や芸術は誰もが同じレベルで触れることができて当然だと思うので、まだクラシックが定着していない国や地域でも、クラシック音楽を楽しめる場を作っていけたらと思っています」
©Günter Zorn

ハンガリーの偉大な音楽家・リストの魅力を発信していきたい

日本・ハンガリー外交関係開設150周年の今年、リストの作品集『リスト・リサイタル』をリリースしたが、リストへの思い入れも強い。 「ピアノの世界では、歴史を大きく変えた重要人物にもかかわらず、不思議と世界中でリストの存在の意識のされ方が低いんです。リストといえば、派手な演奏を披露し、女性ファンとのエピソードが語られることが多いですが、彼の74年の人生の中で、20代前半の数年間のみそのような出来事があった訳です。一人の芸術家の人生を数年間の出来事だけで表現するのはいかがなものかと(笑)。僕は彼が創立した大学で学んだ御恩があるし、半分ハンガリー人でもあるので、リストが社会や音楽のために成し遂げてきた功績をしっかり伝えていかないといけないとある種の使命を感じています。彼の人生を語る上では、親友であったショパン、師匠のツェルニー、そのまた師匠でリストが尊敬していたベートーヴェン、親戚関係だったワーグナー、弟子たちに教えていたバッハの曲集などなど、当然、他の作曲家や作品に触れることにもなりますから、さまざまな方向からリストの魅力を発信していけたらと思います」 最後にクラシックコンサートに敷居の高さを感じている人にこんなアドバイスをくれた。 「そもそも、ピアノのコンサートが定着したリストとショパンの時代は、20~30人入るか入らないかくらいのサロンで、楽器を囲んで、ワインやおつまみを片手に曲と曲の間には奏者や隣の人と話をしたり、奏者にリクエストしたり、奏者が観客に質問したりと、皆で交流を楽しみながら過ごしていました。それがいつしかアーティストが遠い存在になり、演奏を礼儀正しく、かしこまった雰囲気の中で静かに聴いていないと怒られるようなイメージになってしまったのは、クラシック界のここ100年くらいの大きなミスだったと言えるかもしれません(笑)。たとえ大きなホールで行われるコンサートでも、原点はそういう身近な社交場として始まっているということを知っていただいて、少しでも気軽に感じていただけたらうれしいですね。また、僕自身は、コンサートで、曲間にトークをはさんで、その曲の時代背景や作曲家について1~2分でもお話するようにしているんですが、トーク以外の形でも、皆さんに音楽とともに情報もわかりやすくお届けできる見せ方や作り方、表現の仕方がまだまだあると思っていますので、今後も積極的に取り組んでいきたいと思っています」 (取材・文/河上いつ子)
©Ayako Yamamoto
■金子 三勇士 MIYUJI KANEKO (Piano) 1989年、日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれる。6歳で単身ハンガリーに渡りバルトーク音楽小学校にてチェ・ナジュ・タマーシュネー に師事。2001年、11歳でハンガリー国立リスト音楽院大学(特別才能育成コース)に入学、エックハルト・ガーボル、ケヴェハージ・ジュンジ、ワグナー・リタ に師事。2006年に全課程取得とともに帰国。東京音楽大学付属高等学校に編入し、清水和音、迫昭嘉、三浦捷子に師事。2008年、バルトーク国際ピアノコンクール優勝の他、数々の国際コンクールで優勝。2012年第22回出光音楽賞受賞。これまでに、ゾルタン・コチシュ指揮/ ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団、準・メルクル指揮/読売日本交響楽団、ジョナサン・ノット指揮/東京交響楽団小林研一郎指揮/読売日本交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、大阪センチュリー交響楽団(現日本センチュリー交響楽団)他と共演。海外ではハンガリー、アメリカ、フランス、ドイツ、オーストリア、スイス、ギリシャ、ルーマニア、チェコ、ポーランド、中国などで演奏活動を行なう。東京音楽大学を首席で卒業、同大学院修了。日本デビュー5周年となった2016年3月にユニバーサルミュージックよりCD「ラ・カンパネラ~革命のピアニズム」をリリース、9月にはソロ・リサイタル「金子三勇士5大ソナタに挑む!」を開催した。2017年8月には「ハンガリー子どものためのバルトーク国際ピアノコンクール」派遣選考会にて審査員を務める。また11月にブダペストで開催される本コンクールでも審査員として参加した。NHKFM「リサイタル・パッシオ」にレギュラー出演、司会者として毎週若手アーティストを紹介している。2019年5月には新譜CD「リスト・リサイタル」をリリースした。また同年10月公開の映画、恩田陸氏作、直木賞&本屋大賞のダブル受賞に輝いた、国際ピアノコンクールにおける若者たちの群像劇をリアルに描いた『蜜蜂と遠雷』では主人公の一人「マサル」のピアノ演奏を担当。キシュマロシュ名誉市民。スタインウェイ・アーティスト。 2019年8月現在 ■オフシャルサイトコンサート情報

SHARE

旧Twitter Facebook