©Yusuke Matsuyama
日本を代表する気鋭のチェリスト・遠藤真理さん。Eテレ「ららら♪クラシック」では、チェロの名曲として有名なサン・サーンスの『白鳥』を演奏(2013年6月22日放送)。さらに20世紀を代表するチェリスト、パブロ・カザルスを特集した回(2018年7月27日放送)では、「チェロの神様」と称されるカザルスについてわかりやすく解説。チェロの魅力を存分に伝えくれた。
ジャクリーヌ・デュ・プレの演奏に魅せられて
「チェリストにとって『白鳥』は代名詞的な曲なので、番組で弾かせていただけたことはすごく嬉しかったですね。また、カザルスは、音楽的な説得力とか、技術的に迷いのない演奏、高齢になっても衰えないテクニックなど、チェリストにとって神様以上の存在なので、番組でお話できたことはとてもいい経験になりました」 遠藤さんがチェロを始めたのは3歳のとき。2歳上の兄が習っていたバイオリン教室にチェロ教室が新設され、誘われたことがきっかけだった。「チェロは大きいので持ち運ぶのも重くて大変ですし、ピアノと違って、学校にはチェロを習っている子はいなかったので、なんで私はチェロをやっているんだろうと思ったこともありました。でも先生が大好きだったし、毎日お稽古することを積み重ねた結果、だんだん楽しくなってきて。極めつけは、中学生のときに見たジャクリーヌ・デュ・プレの演奏映像でした。なんてステキなチェリストがいるんだろうって憧れて、そこから頑張ろうという気持ちが増しました」 その思いを胸に、東京藝術大学音楽学部附属音楽高校に進学。東京藝大を首席で卒業した後は、2003年第72回日本音楽コンクール第1位、2006年「プラハの春」国際コンクール第3位(1位なし)、2008年エンリコ・マイナルディ国際コンクール第2位など、華々しい経歴を築き上げ、錚々たる指揮者たちとも競演し、国内外で活躍。そんな遠藤さんはチェロの魅力をこう表現する。 「チェロは本来なら重奏の中で低音部を支える楽器のはずなのですが、もう一つ下にコントラバスという楽器があるので、旋律を奏でる楽器でもあり、ベースラインを弾く楽器でもあるんです。それだけに、いいメロディーをたくさん歌うことができるのがチェロの魅力。シンフォニーの中で、このステキなメロディーはどの楽器かしらと思って聞くと、チェロだということは多いんですよ」
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人の求めるものに応えながらも自分の思いを出すのが目標
しかし、女性の中でもとても小柄な遠藤さん。チェロを扱うのは大変ではないだろうか。「体の大きさ、背の高さ、腕の太さ、手の大きさ、どれをとっても圧倒的に男性より小さいので、不利に感じることは多々あります。でも、大学のときに師事していた先生がやはりとても小柄な女性で、先生から、チェロは瞬発力や運動能力があれば良い音が出せるということを教わり、技術を磨いてきました」 2017年4月からは、ソリストとしての活動に加え、読売日本交響楽団のチェロのリーダーに就任。ソロ・チェロ奏者としても活躍している遠藤さん。チェロを演奏するうえで、何よりこだわっているのは「自分の音」だ。 「弦楽器は楽器の中で一番、音に演奏する人が表れます。同じ弦楽器を弾いても、みんな音が違って、演奏する人それぞれの音がするんです。だからこそ、常日頃から自分の音を追求し、作ることは大事だと思っています。その道にゴールはありません。細胞が生まれ変わるのと同じで、気持ちは毎日変わるし、毎日受ける刺激もあります。さらに、オーケストラで弾けば、指揮者が求める音もあります。人の求めるものに応えながらも自分の思いを出すというのが演奏家である私の一番の目標であり、それが最高のパフォーマンスだとも思うので、今は、そうなれるよう幅を広げている最中です」 読響での活動は、遠藤さんにこんな新たな楽しみも与えている。 「今まではただ毎日、自分の練習をし、自分を磨けばよかったのですが、不思議なもので、オーケストラの中にいると、自分はさておきっていう状況になるんです。仲間の中で演奏することで、チェロを弾く楽しさよりも、音楽をする楽しさが強くなっている感じでしょうか。その分、また違った技術も日々必要になっているんですけどね」
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気になった曲があったら、生で聴いてほしい
2012年4月からは、気楽にクラシック音楽を楽しめる音楽バラエティー・ラジオ「きらクラ!」(NHK-FM)のパーソナリティも担当。「リスナーとの会話のキャッチボールは私にとって勉強になることが多く、とても面白い」と語る遠藤さんに、クラシック・コンサートに敷居の高さを感じている人たちに向けてのアドバイスを聞いてみると……。 「まずはとにかく、コンサートを体験してみてほしいですね。日々テレビのCMでもクラシックはたくさん流れていますし、フィギュアスケートで使われた中にも人気となったクラシック曲がたくさんあります。きっかけは何でもいいので、自分が気になった曲をリサーチして、その曲を演奏するコンサートを探して、行ってみてください。気になった曲を生で聞くのはとても面白いですし、それがオーケストラだったとき、例えば、ティンパニーや大太鼓の音は、ホールで聞くとものすごく迫力があるし、大勢の迫力が味わえるのも、生演奏ならではの楽しみです。また、楽器を弾くことに引退はないと言われていますが、室内楽の場合、演奏家にとって、年齢も性別も問わず、言語の壁も越えて、演奏家同士、音楽を通して舞台上で語り合えるのが何よりの醍醐味で、オーケストラのような大きな編成になればなるほどその魅力は増します。ですから、そんなふうに演奏家が舞台上で交わしている会話のようなものも感じていただけたら、コンサートをより楽しんでいただけるのではないかと思います」 さらに「外国のように、ドレスアップしてクラシックコンサートに出かけるという楽しみ方もいいですよね」と遠藤さん。そんなふうに特別なイベントとしてクラシックコンサートを楽しみたい初心者へのお勧めは? と聞いてみると、今や日本の音楽界の年末の風物詩といえる『第九』(ベートーベン『交響曲第9番 合唱付き』)コンサートを挙げてくれた。 「とても華やかで迫力がありますし、演奏している私達も年末感があって、いつものコンサートとはまた違った楽しさがあるんです。クラシックコンサートに興味がある方には、ぜひ一度、年末に『第九』を生演奏で聴いていただきたいですね」。 (取材・文/河上いつ子)
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■遠藤 真理 Mari Endo (Cello)
神奈川県出身。3歳よりチェロをはじめる。東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、同大学を首席にて卒業。学内にて福島賞、安宅賞、アカンサス音楽賞、NTTDoCoMo賞を受賞。2003年第72回日本音楽コンクールで第1位および徳永賞を受賞、2006年「プラハの春」国際コンクールにて第3位(1位なし)、2008年エンリコ・マイナルディ国際コンクールにて第2位。
これまでに、アンサンブル金沢、大阪センチュリー、大阪フィル、神奈川フィル、札幌響、新日本フィル、東京シティフィル、東京都響、東京フィル、東響、名古屋フィル、山形響、広島響など国内の主要オーケストラに招かれ、円光寺雅彦、現田茂夫、小林研一郎、井上道義、金聖響、小松長生、飯森範親、ゲルハルト・ボッセ、ジャン・ピエール・ヴァレーズ、ルドヴィーク・モルローらと共演。ドイツで行われたキームガウ春の音楽祭、神戸国際芸術祭では世界で活躍中の若手奏者を集めたアンサンブル・ラロとの共演、ザルツブルグにてザルツブルク・ゾリステンとの共演など、室内楽奏者としても活躍中。2006年9月には紀尾井ホール、青葉台フィリアホールにてリサイタルデビュー。2007年はオーケストラ・アンサンブル金沢の国内ツアー、都民芸術フェスティヴァルに参加。2009/2010シーズンはプラハ交響楽団やウィーン室内管弦楽団と共演など国内外に活躍の場を広げている。
2010年にはNHK大河ドラマ「龍馬伝」にて「龍馬伝紀行」のテーマ曲を演奏。9月1日発売の新譜「Cello Melodies 龍馬伝紀行Ⅲ」をはじめ3枚のソロアルバム、また川久保賜紀(Vn)、三浦友理枝(Pf)とのトリオ・アルバム「RAVEL」がエイベックスよりリリースされている。
これまで臼井洋治、河野文昭、山崎伸子、藤森亮一、クレメンス・ハーゲンの各氏に師事。2005年より明治安田クオリティオブライフ文化財団、2006年よりロームミュージックファンデーションの助成を得て、ザルツブルクのモーツァルテウム音楽大学に留学。2007年マギスター課程を満場一致の最高点で卒業。また同年神奈川県より文化賞未来賞受賞。2009年12月には、齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞。2012年4月よりNHK-FM「きらクラ!」パーソナリティを務める。 今後の活躍が大変楽しみな若手チェリストの一人である。
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