2022年10月1日(土)、東京文化会館で「TOKYO WIND SPECIAL 東京佼成&シエナ 夢の競演! 〜リクエスト曲を、ド迫力の合同演奏で楽しむ、特別な1日〜」が開催されました。 開場時間ちょうどに上野の駅に降り立つと、文化会館の前の広場はいつもよりもひときわ混み合っているような印象。公園方面に流れる人々とは明らかに違う、うきうきした人たちがホールの入り口に吸い込まれていきます。それもそのはず、今回は東京佼成ウインドオーケストラ(以下TWKO)とシエナ・ウインド・オーケストラ(以下シエナ)が両方とも聴けてしまう、吹奏楽好きにはたまらないコンサート。なんと、両バンドが一つのステージに上がっての合同演奏まであるというのです。ロビーにはTWKO、シエナそれぞれのオリジナルグッズや録音物などを揃えたショップもあり、大変にぎわっていました。
開演前にまず、プログラムノートの執筆者でもある富樫鉄火氏によるプレトークがありました。今回のこの演奏会がまるで「コンサート3つ分」に相当するというところからお話が始まりました。
TWKOとシエナの合同演奏はこれまでにTV番組の企画で1度、ステージで1度あったそうですが、ここまで大規模なものははじめてだとのこと。コンクールで取り上げられる有名曲のデータブックを書かれた富樫氏の流れるようなトーク、すでに着席した吹奏楽ファンたちも聞き入っていました。シエナのリクエスト曲に2曲含まれているアルフレッド・リードについて、そしてTWKOの演奏曲目であるニュー・サウンズ・イン・ブラスを支えた岩井直溥、真島俊夫についての解説などを興味深く拝聴したあと、いよいよ第1部の幕が上がります。
第1部 シエナ・ウインド・オーケストラ×田中祐子
・A.リード:エル・カミーノ・レアル
・酒井格:たなばた
・樽谷雅徳:マゼランの未知なる大陸への挑戦
・A.リード:アルメニアン・ダンス・パート1
1曲目のエル・カミーノ・レアルからまず驚かされたのは、田中祐子さんの洗練された構成力。学生の演奏では力押しの演奏になることも多いこの超有名曲を見事に整理し、勢いのある指揮ぶりでぐいぐいと引っ張ります。中間部の自在なテンポ感には何度も息をのみました。
続く「たなばた」「マゼランの未知なる大陸への挑戦」はいずれも日本人作曲家の中で特に人気のお二人、酒井格氏と樽屋雅徳氏の出世作。プロフェッショナルの演奏できちんと聴く機会が案外少ない作品でもありますが、ほとんど知らない曲に聴こえるような瞬間も。「マゼランの~」で印象的な、荒海を思わせる部分は、わざと細かな連符をにじませることで潮煙を連想させるなどのクラシカルな技工も感じられました。第3部のトークで御本人が発言したところによると、田中さんはほとんど吹奏楽の指揮をしてこなかったので、アルメニアン・ダンス以外の作品は今回始めてスコアを勉強したとのことでしたが、そんなことを微塵も感じさせない、作品に対する真摯なアプローチで聴くものを魅了しました。
第1部 シエナ・ウインド・オーケストラ×田中祐子
・A.リード:エル・カミーノ・レアル
・酒井格:たなばた
・樽谷雅徳:マゼランの未知なる大陸への挑戦
・A.リード:アルメニアン・ダンス・パート1
1曲目のエル・カミーノ・レアルからまず驚かされたのは、田中祐子さんの洗練された構成力。学生の演奏では力押しの演奏になることも多いこの超有名曲を見事に整理し、勢いのある指揮ぶりでぐいぐいと引っ張ります。中間部の自在なテンポ感には何度も息をのみました。
続く「たなばた」「マゼランの未知なる大陸への挑戦」はいずれも日本人作曲家の中で特に人気のお二人、酒井格氏と樽屋雅徳氏の出世作。プロフェッショナルの演奏できちんと聴く機会が案外少ない作品でもありますが、ほとんど知らない曲に聴こえるような瞬間も。「マゼランの~」で印象的な、荒海を思わせる部分は、わざと細かな連符をにじませることで潮煙を連想させるなどのクラシカルな技工も感じられました。第3部のトークで御本人が発言したところによると、田中さんはほとんど吹奏楽の指揮をしてこなかったので、アルメニアン・ダンス以外の作品は今回始めてスコアを勉強したとのことでしたが、そんなことを微塵も感じさせない、作品に対する真摯なアプローチで聴くものを魅了しました。
そして、アルフレッド・リードの作品の中でも非常に人気の高い1曲「アルメニアン・ダンス パート1」へ。いくつかの異なる表情の民謡をつなぎ合わせているこの作品、遅いテンポで雄大に聴かせる部分、推進力をもって小気味よく歩をすすめる部分と、そのつど表情をがらりと変えながらも、曲同士の間が有機的に関連し合う様子が見事でした。演奏後、くるくるとステージ上を飛び回りながら団員の皆さんを称える田中さんの姿が実にチャーミングでした。
第2部 TWKO×石﨑真弥奈
・私のお気に入り
・カーペンターズ・フォーエバー
・ディズニー・メドレー
・シング・シング・シング
・オーメンズ・オブ・ラブ
・宝島
続いては東京佼成ウインドオーケストラの出番です。指揮は先程の田中祐子さんとは同大学の後輩にあたる石﨑真弥奈さん。休憩の間に、ステージ中央にはドラムセットが運び込まれました。1曲目の「私のお気に入り(R.ロジャーズ作曲、宮川彬良編曲)」が始まると、いつものTWKOとは若干違う空気を感じます。丸田悠太さんはピンク色のピッコロで演奏しているし、トランペットにはなにやら緑色の髪の方が座っているのも見受けられます(編集部註:J-Popをはじめ多くのレコーディングに参加している、木幡光邦(こはた みつくに)さんがゲスト出演していたのでした)。
・私のお気に入り
・カーペンターズ・フォーエバー
・ディズニー・メドレー
・シング・シング・シング
・オーメンズ・オブ・ラブ
・宝島
続いては東京佼成ウインドオーケストラの出番です。指揮は先程の田中祐子さんとは同大学の後輩にあたる石﨑真弥奈さん。休憩の間に、ステージ中央にはドラムセットが運び込まれました。1曲目の「私のお気に入り(R.ロジャーズ作曲、宮川彬良編曲)」が始まると、いつものTWKOとは若干違う空気を感じます。丸田悠太さんはピンク色のピッコロで演奏しているし、トランペットにはなにやら緑色の髪の方が座っているのも見受けられます(編集部註:J-Popをはじめ多くのレコーディングに参加している、木幡光邦(こはた みつくに)さんがゲスト出演していたのでした)。
今回、TWKOが第2部で演奏したのはすべて「ニュー・サウンズ・イン・ブラス(=以下NSB)」というシリーズの作品。吹奏楽の編成に合わせて作曲された作品(=オリジナル曲)のみでなく、もともと吹奏楽以外のために書かれたものをアレンジして演奏できるのも吹奏楽の楽しみのひとつですが、NSBシリーズはメドレーに根強い人気曲が多く、今回リクエストされた中にも、カーペンターズの不動の名曲をあつめた「カーペンターズ・フォーエバー」や「ディズニー・メドレー」などがあがっていました。
ビッグバンドの定番曲「シング・シング・シング(L.プリマ作曲、岩井直溥編曲)」では、コンサートマスター太田友香さん、ドラムの秋田孝訓さんも見事なソロを披露しましたが、圧巻だったのは前述した緑のモヒカンヘア、Trp.木幡さんによる長尺ソロ。ややノイズの乗ったジャジーな音色といい、体の一部であるかのようなミュートプレイといい、しびれるひとときでした。
ビッグバンドの定番曲「シング・シング・シング(L.プリマ作曲、岩井直溥編曲)」では、コンサートマスター太田友香さん、ドラムの秋田孝訓さんも見事なソロを披露しましたが、圧巻だったのは前述した緑のモヒカンヘア、Trp.木幡さんによる長尺ソロ。ややノイズの乗ったジャジーな音色といい、体の一部であるかのようなミュートプレイといい、しびれるひとときでした。
そして最後に、岩井直溥と並び立つNSBを支えた名アレンジャーでもあり作曲家の、真島俊夫の作品。コントラバスを弾いていた鈴木智さんがドラムセットの隣に移動し、エレキベースへ持ち替えて強力なリズム隊となります。「オーメンズ・オブ・ラブ(和泉宏隆作曲、真島俊夫編曲)」「宝島」のどちらも、T-SQUAREの作品を真島俊夫氏が華麗で豪華なサウンドにリコンポーズしたことで一躍吹奏楽でも人気曲になりました。
石﨑さんは終始にこやかなステージマナーで堅実な指揮ぶりに見えて、実はかなり細かくバランスをとる指示を出し続けており、それがNSBシリーズのようにソロプレイの多い作品でも絶妙なバランスを保ち続けた結果につながっていたようでした。
石﨑さんは終始にこやかなステージマナーで堅実な指揮ぶりに見えて、実はかなり細かくバランスをとる指示を出し続けており、それがNSBシリーズのようにソロプレイの多い作品でも絶妙なバランスを保ち続けた結果につながっていたようでした。
「宝島」は吹奏楽部員にはいわずもがな、演奏したことのあるという方も多いと思いますが、この日の演奏はアルトサクソフォンのソロといい、打楽器の盛り上がりといい、ホーン・セクションの見せ場といい、全てが吹奏楽経験者にとって「(自分がステージに立っていた)あの時、あんなふうに演奏できていたら…」と思わせられるような、理想形の演奏だったといえるでしょう。
ここまでの重量級プログラムを終えて、もうほとんど満腹のような心持ちですが、まだまだ演奏会は続きます。いよいよ大注目の、シエナ・TKWO合同ステージの開幕です。
第3部 合同ステージ
・J.バーンズ/アルヴァマー序曲(石﨑)
・東海林修:ディスコ・キッド(田中)
・福田洋介:さくらのうた(石﨑)
・レスピーギ:交響詩「ローマの松」から “アッピア街道の松”(田中)
シエナ・TKWO双方のスタッフによってステージ上に並べられた椅子の数は100を超える多さ。東京文化会館のステージ床がみるみる見えなくなるのに比例して期待が高まっていきます。
第3部の口火を切ったのは石﨑マエストラ。A.リードの「アルヴァマー序曲」は人気投票2位でしたが、第1部のシエナステージではなく合同ステージでのお目見えとなりました。石﨑さんの師は(この作品を楽譜よりはるかに早いテンポで演奏して日本中に知らしめた)汐澤安彦氏ですが、この日のテンポは、ほぼ楽譜通り。100名近い大人数ですからその音圧は言わずもがな、驚異的だったのは弱奏の素晴らしさで、シルクのようになめらかな中間部のメロディーに思う存分浸ることができました。
ここまでの重量級プログラムを終えて、もうほとんど満腹のような心持ちですが、まだまだ演奏会は続きます。いよいよ大注目の、シエナ・TKWO合同ステージの開幕です。
第3部 合同ステージ
・J.バーンズ/アルヴァマー序曲(石﨑)
・東海林修:ディスコ・キッド(田中)
・福田洋介:さくらのうた(石﨑)
・レスピーギ:交響詩「ローマの松」から “アッピア街道の松”(田中)
シエナ・TKWO双方のスタッフによってステージ上に並べられた椅子の数は100を超える多さ。東京文化会館のステージ床がみるみる見えなくなるのに比例して期待が高まっていきます。
第3部の口火を切ったのは石﨑マエストラ。A.リードの「アルヴァマー序曲」は人気投票2位でしたが、第1部のシエナステージではなく合同ステージでのお目見えとなりました。石﨑さんの師は(この作品を楽譜よりはるかに早いテンポで演奏して日本中に知らしめた)汐澤安彦氏ですが、この日のテンポは、ほぼ楽譜通り。100名近い大人数ですからその音圧は言わずもがな、驚異的だったのは弱奏の素晴らしさで、シルクのようになめらかな中間部のメロディーに思う存分浸ることができました。
実は、吹奏楽部で初めて演奏したのがこの「アルヴァマー序曲」だったという石崎さん
続いては「ディスコ・キッド」。作曲されてから40年以上経過してもなお、大いに愛され続けるポップス課題曲の名作です。この曲、譜面に指示が書かれているわけではないのですが、冒頭のキメの部分で演奏者が(または観客も一緒に)『ディスコ!』の掛け声をさけぶ慣習があります。感染症対策のために客席での声出しを制限されているいま、どうなることかと見守っていたのですが、指揮の田中さんがその場面に差し掛かった瞬間、くるりと聴衆に振り向いてみせたではありませんか。思わず心のなかで『ディスコ!』を思い浮かべた方も多かったのではないでしょうか。
恩師汐澤安彦氏からレッスンで「君に似合うのは古典か、フランス音楽か、エル・クンバンチェロだね」と言われたというエピソードを披露した田中さん
次の作品も課題曲ですが、がらりと趣向を変え、しっとりとした「さくらのうた」。終始穏やかで緩徐楽章のような、課題曲としては珍しい曲想で、発表当時から注目が集まっていた作品ですが、TKWOとシエナの合同バンドによって繊細かつ大樹の桜のように厳かなサウンドを味わうことができました。客席には作曲者の福田洋介氏の姿も。
そしてとうとうプログラム最後の作品。レスピーギは吹奏楽でも演奏機会の多い作曲家の筆頭格ですが、なかでも不動の人気を誇る「ローマ三部作」から「ローマの松 第4楽章”アッピア街道の松”」がチョイスされました。バンダ隊にもTWKOとシエナの両バンドの名看板奏者が贅沢に並び、ホール全体を揺らす大音響はただただ圧巻のひとこと。
アンコールには、きっとこれをやってくれるだろうとの期待どおり、人気投票にもあがっていた「アフリカン・シンフォニー」を、田中さんの指揮で。ダイナミックな身振りで生き生きと指揮する田中さんの姿に、きっと今後は吹奏楽のお仕事が増えること間違いなしと思われました。
そしてとうとうプログラム最後の作品。レスピーギは吹奏楽でも演奏機会の多い作曲家の筆頭格ですが、なかでも不動の人気を誇る「ローマ三部作」から「ローマの松 第4楽章”アッピア街道の松”」がチョイスされました。バンダ隊にもTWKOとシエナの両バンドの名看板奏者が贅沢に並び、ホール全体を揺らす大音響はただただ圧巻のひとこと。
アンコールには、きっとこれをやってくれるだろうとの期待どおり、人気投票にもあがっていた「アフリカン・シンフォニー」を、田中さんの指揮で。ダイナミックな身振りで生き生きと指揮する田中さんの姿に、きっと今後は吹奏楽のお仕事が増えること間違いなしと思われました。
終わってみれば3時間をゆうに超える長時間の公演でしたが、まるで学校吹奏楽部の定期演奏会のようでもあり、演奏しているTWKO、シエナの団員の皆さんがじつに楽しそうにされているのが印象的でした。ぜひ来年もこんな「お祭り」のような機会があればと願わずにはいられない、熱く楽しい夜となりました。