激動の2020年。まさかコンサートホールで音楽を聴くことがこれほど困難になる日が来ると、いったい誰が想像したでしょう。ヴァイオリニスト古澤巖(いわお)は、そんな状況の中にあっても、常に最高のパフォーマンスを私たちに届けるために、日々あらゆるアプローチでもってヴァイオリンを極め続ける一流の音楽家です。 昨年は2度にわたり「ららら♪クラシック」に登場。番組ではバッハの名曲から現代作曲家のタンゴ、さらにはハンガリーの民族舞踊を元にしたモンティの《チャールダーシュ》などを演奏しました。インタビューではその実に多彩なパフォーマンスに秘められた彼の「音楽にかける想い」に迫ります。40年近く演奏活動を続ける彼が今も昔も、そしてコロナ前も後も変わらずに持ち続ける古澤流、お客様への「もてなしの心」とは?
全てはいい音楽に通ずる
ベルリン・フィルのメンバーと
「なぜ?納得できない!」音楽について問い続けた半生
――古澤さんが全てを捧げるヴァイオリンの演奏について伺いたいのですが、古澤さんはなぜこんなにも、クラシックの枠を超えて、多様な音楽ジャンルを演奏できるのでしょうか。 「音楽ってなんだろう」とか「人生ってなんだろう」とかその答えを見つける過程、いわば自分探しの中で出会っていったところがあります。 子供の頃はクラシック音楽をやっていましたが、日本でクラシックを演奏しているのはほとんど外国人でした。だから無意識のうちに外国人がやるもの、という印象を持ってしまったもので、日本人である僕が演奏してどんな意味があるのかなんて漠然と思いながら学んでいました。ヴァイオリニスト イヴリー・ギトリスと
ジャズヴァイオリニスト、ステファン・グラッペリと
「僕と一緒だ。」ジプシーたちの生活を目の当たりにして
――番組で披露された、躍動感溢れるモンティの《チャールダーシュ》ですが、古澤さんがコンサートで取り上げられていた80年代は、演奏会のレパートリーとしては珍しかったんですよね。 当時、葉加瀬くんと「ヴィンヤードシアター」というバンドを組んで演奏していました。ただその頃はモンティの《チャールダーシュ》は下世話な音楽だと認識されていてコンサートのラインナップに乗せてはならぬ、という鉄則があったんです。それでもあえて演奏したのは、ソフィスティケートされた聴衆に対して、そういう曲をブラームスやベートーヴェンなどクラシック音楽の作品と並べることで受け入れてほしい、という思いがあったからです。 それはいわば一か八かのある種の賭けだった訳ですが結果的には「吉」と出ましたね。今では世界中でヴァイオリニストのレパートリーになっているから、嬉しいです。 ――その後ルーマニアをはじめとする東欧の国々へ旅をされたそうですが、そのことについてお話いただけますか? 僕はヴィンヤードシアターの後、90年から外国人と「タイフーン」というバンドを組んで、ルーマニアのバンド「タラフ・ドゥ・ハイドゥークス」*(以下、タラフ)のコピーをそれはそれは熱心にやっていました。タイフーンは99年に解散しましたが、2002年にNHKの「はるかなる音楽の道 〜さすらいのバイオリン〜」という番組の取材で、タラフの住んでいた村へ行くことができたんです。ちなみに僕らが解散したのは、タラフが来日したことがあって、本家である彼らが世界ツアーをするんだったら、もう僕たちの役目は終わった、と思ったからです。 *ルーマニアの首都ブカレストの南東、クレジャニ村のジプシー(ロマ)バンド。ルーマニアのブカレストにてゴミ拾いをするジプシー(2020年2月撮影)
ルーマニアのピエトロシャニで馬に乗るジプシー(2019年1月撮影)
ルーマニアのブカレストの路上にて演奏するジプシー(2019年5月撮影)
コンサートでは、最高のおもてなしを
――とにかくお客さんに「尽くす」ことを大切にされている古澤さん。2021年1月以降も、注目の公演が目白押しです。まずは、「シックスアンリミテッド コンサートツアー」についてですが、そのグループ名Six Unlimited(無限大の6人)にも象徴されるように、各ジャンルのプロフェッショナルたちが集まっていますね。 Six Unlimitedのメンバー:左から小沼ようすけ(ギター)、古澤 巖 (ヴァイオリン)、塩谷 哲(ピアノ・音楽監督)、東儀秀樹(雅楽師)、 大儀見 元(パーカッション)、井上陽介(ベース) そうですね、自分がこの曲が好きだとかは二の次で、とにかく演奏はお客さんに喜んでもらうためにやります。 今回の6人は楽器の演奏に関してはみんな超一流です。リハーサルでは、「いかにカッコよく決まるか」を見極めています。 ――ジャンルも個性も違う面々が、どうやってあの溶け合うサウンドを作り出すのでしょう。 それは、全員が作品というファンタジーの中で自分がどんな演技(演奏)をすべきかという役割をきちんと把握しているからでしょうね。その状態で6人の奏でる音楽に、本番ではお客さんも加わることで、会場にはそれはそれはすごいエネルギーが生まれます。演奏しているとそのエネルギーが来るわ来るわ、ビンビン感じるんですよ。そうするともう、プレイヤーとお客さんの間にある利害関係とか立場とか関係なくなりますね。そして僕はステージ上で、他の5人が奏でる音の中に、これまで彼らが見てきたものや過ごしてきたであろう人生を感じながら演奏しています。だからね、僕、本番が楽しみでならないですよ。 ――コンサートでの注目ポイントはどこでしょうか? 配置の話になりますが、ステージ中央にソルトくん(塩谷さん)がピアノの蓋を開けてどんと構えて、その後ろにパーカッションの大儀見さんがいます。僕にとっては、大儀見さんが核なんです。演奏って、彼がとるカウントで曲が始まり、曲中も彼がビートを刻みながら音楽の流れをコントロールしているからです。地球に例えてみると、大儀見さんが自転の速度や海の波の満ち引きという大地の動き=テンポを司る、いわば神様みたいな存在なんです。だから音楽を聴きながら「魂のビートとはこういうことか」と、ダイレクトに感じることができると思います。その上で、僕や東儀くんが人類のごとくメロディを奏でているようなもので、この6人が揃うと、大いなる大地にも匹敵するスケール感の音楽を体験できるはずです。 ――共演されているメンバーについてですが、雅楽師の東儀秀樹さんとはもう20年来一緒に演奏されていらっしゃいますね。 僕がなぜ東儀くんと一緒に演奏するかというと、神に捧げる音楽である雅楽というものを彼はちゃんとできる、雅楽師として一流だからです。彼に出会って、あまりに神々しい演奏をするので、音をこういう風にして出すのか、ということを学びました。 ――バロック音楽の公演も、「バロック X’mas」「バロック音楽の昼と夜」と題して2020年12月から全国ツアーが続いていますね。聴きどころはどんなところでしょうか。 しらかわホール(名古屋)にて バロックアンサンブルのi barocchi、TAIRIKさんと ちょうど1年前くらいから、バロック音楽を改めて学び始めました。バロック音楽は、クラシックでいうと最古の音楽でいわばルーツとも言えるものなので、得るものが非常に多いんですね。 今回の公演でとても苦労したのは、普段はスチールの弦を張っているんですが、このコンサートだけ羊の腸の筋をよって作ったガット弦に張り替えて演奏していることです。ガット弦で演奏すると、楽器の鳴りが「嘘だろ!?」っていうくらい全然変わりました。他の楽器も、例えばチェロもバロックチェロだから、お馴染みのチェロとは少し違って、ピンを刺さないんですね。バロック音楽ならではの楽器の違い、そして音色もぜひ、会場で味わっていただきたいです。あと、バロックの昼と夜では、名曲だけでなく誰も聞いたことがないような昔の曲もプログラムに入っていますので、楽しみにしていただければと思います。リハーサル終了後、TAIRIKさんと
今後の公演について
古澤巖×ベルリンフィルハーモニックストリングス
「愛のクリスマス」
日時・会場・料金 | 2021年12月11日(土) 開演13:30(開場12:45) 【会場】三井住友海上しらかわホール(名古屋) 【料金(税込)】S席:8,500円 A席:7,500円 2021年12月12日(日) 開演13:30(開場12:45) 【会場】東京オペラシティ・コンサートホール(東京) 【料金(税込)】S席:7,500円 A席:6,000円 2021年12月15日(水) ①開演14:00(開場13:30)②開演18:00(開場17:30) 【会場】観世能楽堂(銀座 SIX)(東京) 【料金(税込)】10,000円 (全席指定) 2021年12月16日(木) 開演14:00(開場13:00) 【会場】横浜 関内ホール 大ホール(神奈川県) 【料金(税込)】7,500円 (全席指定) 2021年12月17日(金) 開演14:00(開場13:00) 【会場】ザ・シンフォニーホール(大阪) 【料金(税込)】S席:7,500円 A席:6,000円 2021年12月18日(土) 開演15:00(開場14:00) 【会場】北九州ソレイユホール※旧九州厚生年金会館(福岡県) 【料金(税込)】S席:7,700円 A席:6,600円 小・中・高校生:3,300円 |
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出演 | [ヴァイオリン]古澤 巖 ベルリンフィルハーモニックストリングス ※来日メンバーは後日発表 |
プログラム | ブルッフ:スコットランド幻想曲 ロベルト・ディ・マリーノ:マリーノコンチェルト「第6番」 エンニオ・モリコーネ:The Ecstasy of Gold クリスマス曲 他 |
お問い合わせ | 2021年12月11日(土) クラシック名古屋 TEL:052-678-5310 2021年12月12日(日)、15日(水)、16日(木) キョードー横浜 TEL:045-671-9911(月~土11:00~18:00) 2021年12月17日(金) キョードーインフォメーション TEL:0570-200-888 2021年12月18日(土) ヨランダオフィス・チケットセンター(10:00~18:00) TEL:0570-033-337(ナビダイヤル) TEL:092-406-1771 ※今後のコロナ禍の状況により内容及び出演者を変更させていただく可能性がございます。 ※本公演は新型コロナウイルス感染拡大予防のため、国や自治体のガイドラインに従った対策を講じたうえで開催いたします。 ※マスク未着用および37.5℃以上の発熱および体調の優れない方のご入場は出来ません。 |
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Six Unlimited コンサートツアー
~オールスターズの企てSeason.2~
日程 | 2021年11月6日(土) 愛知県芸術劇場コンサートホール 公演 2021年11月7日(日) 相模女子大グリーンホール 公演 2021年11月23日(火祝) 川口リリアメインホール公演 2021年12月1日(水) 静岡県コンベンションアーツセンター グランシップ 中ホール・大地公演 2021年12月5日(日) 岡山市民会館公演 2021年12月22日(水) アクトシティ浜松 大ホール 公演 2022年1月22日(土) NHK大阪ホール 公演 |
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出演 | 東儀秀樹(雅楽) 古澤 巖(ヴァイオリン) 塩谷 哲(ピアノ・音楽監督) 小沼ようすけ(ギター) 大儀見 元(パーカッション) 井上陽介(ベース) |
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古澤 巖(ふるさわ いわお) 1959年東京生まれ。3才半でヴァイオリンをはじめ毎日学生音楽コンクール中学生の部第1位、1979年日本音楽コンクール第1位。桐朋学園女子高校音楽科、桐朋学園大学首席卒業、小澤征爾の計らいでタングルウッド音楽祭に招待参加、クラズナーに学ぶ。文化庁給費留学生としてフィラデルフィアのカーチス音楽院(全員奨学生)卒業、バーンスタイン、チェリビダッケ等に学ぶ。イタリアアバドコンクール第1位。ザルツブルクのモーツァルテウム音楽院に2年在籍、ヴェーグに学ぶ。またチューリッヒ、ロンドン、パリ、南仏でミルシテイン、ギトリスに学び1987年に帰国。 1986年木曽福島の夏のキャンプで葉加瀬太郎と出会い、初のジプシーバンドを開始。1988-91年、東京都交響楽団の世界ツアーの為、初のソロ・コンサートマスター(年間ソロ6回、コンサートマスター11回)に就任。CM「カフェグレコ」「ピースライトBOX」出演。90年代は海外の一流のメンバーとピアノ4重奏バンド「タイフーン」及びパリからの5重奏団「ソルティエ・ダーティスト(現在コルシカ音楽祭主催メンバー)」と年間150公演行い1999年に解散する。またギターの最高峰アサド兄弟と6年、天才高橋悠治と6年過ごし、2006年より葉加瀬太郎のHATSレーベルでpopsを開始。FM「ジェットストリーム」及び、RKB「新・窓を開けて九州」のテーマ曲、両毛線フラワーパーク駅の「Fine Day!」を演奏している。今までに、ヨーヨーマ、グラッペリ、ペーターダム、プレトニョフ等と共演。葉加瀬太郎、高嶋ちさ子との「三大ヴァイオリニスト」、東儀秀樹、cobaとの「TFC55」の活動は2019年迄行った。現在はTAIRIKらとの「品川カルテット」及びベルリンフィル・メンバーによる弦楽5重奏とのXmasツアー等を行っている。2019年宗次コレクションより最高のストラディヴァリウス「サン・ロレンツォ」を生涯貸与。 COCO FARM WINERY取締役、日向へべす大使、足利輝き大使、観音寺ふるさと応援大使、2017年よりテラモスレーシングチーム所属。全国の奉納演奏等も含め、年間150公演を行う傍ら2018年より洗足学園音楽大学客員教授就任。趣味はサーフィン。