5度跳躍の高揚感
ウィリアムズの音楽には、冒頭に“5度跳躍”が多く使われています。“跳躍”とは、「ドレミ…」と音が順番に進行するのではなく、「ドミ」とか「ソド」といったように、音が3つ以上離れた所へ進行することをいいます。“〇度”とは、2つの音が鍵盤いくつ分離れているか、ということを表しています。つまり “5度跳躍”というのは、「ドソ」や「ミシ」のように5つ離れた音程へ跳躍することをいうのです。
5度跳躍は、非常にSFチックで、宇宙や未開の地などに飛び立つような、聴く人をワクワクさせる効果があります。例えば、ベートーベンの《第九》の冒頭。弱音の「ミ・ラ」の音程で始まります。とても神秘的で、「これから何が始まるのか」とワクワクしませんか?リヒャルト・シュトラウスの《ツァラトゥストラはかく語りき》の冒頭は「ドーソードー」と始まります。5度跳躍が、宇宙への旅立ちを感じさせます。
ここでジョン・ウィリアムズの音楽に話を戻します。『スター・ウォーズ』、『E.T.』、『ジュラシック・パーク』、『スーパーマン』…。これらの有名な作品は、すべてメインテーマの冒頭に“5度跳躍”が使われています (譜例1~4)。
この譜例を見ていただくとわかるように、5度跳躍から始まっています。さらに、その跳躍のあとは順次進行となっており、特にスター・ウォーズとE.T.に関しては、始めから5音目までは全く同じ位置関係となっています。
クラシック音楽には“対位法”という理論がありますが、跳躍した後は順次進行をすることが良いとされています。まさにこれらの旋律は、対位法の理論に忠実に作られているわけです。
ライト・モチーフ
オペラ(特にワーグナーの楽劇)の中には、ライト・モチーフという技法が使われることがあります。ライト・モチーフとは、特定の登場人物や出来事、感情などと結びつけられた音楽上の主題や動機のことです。例えば、登場人物Aのメロディはこれ、ヒロインのメロディはこれ、愛のテーマはこれ、というように登場人物や感情とメロディが結び付けられ、それが絡み合うことによって、音楽上でも物語を紡ぎます。
ワーグナーの楽劇《ワルキューレ》の最後の場面では、主神ヴォータンの怒りを買ったブリュンヒルデが、神性を取り上げられ、眠りにつかされます。そして、やがて現れる英雄によって眠りから覚まされ、その男のものとなると告げられます。その時に、その英雄が“ジークフリート”であるとほのめかすように、“ジークフリートのモチーフ”が音楽の中に現れるのです。
ジョン・ウィリアムズは、このライト・モチーフという手法を非常に効果的に使っています。
『スター・ウォーズ-エピソード1』では、幼いアナキンが移っているバックで《帝国のマーチ》の断片が流れ、このあどけない少年が後のダースベイダーとなることがほのめかされています。まさに現代の楽劇だといっても過言じゃないでしょう。
余談ですが、上のジークフリートのモチーフ、スター・ウォーズによく似たテーマが現れます。気になった方は探してみてください。
広がりのあるハーモニー
これまで、ジョン・ウィリアムズの音楽の旋律についてお話してきましたが、最後に、和声進行(ハーモニー)についてお話ししたいと思います。5度跳躍のようなSFチックな旋律の動きがあるように、SFチックな和音の進行もあります。
下の譜例6をご覧ください。
上記でも見ていただいたE.T.の主題ですが、1,2小節目が「ドミソ」のコードです。そして3小節目で「レファ#ラ」と、2度上の調の長調の主和音が使われています。これは専門的な言葉でいうと「ドッペル・ドミナント」といって、ハ長調に近いト長調の属和音を借りてきているのですが、このドッペル・ドミナントの扱いが、時に音楽の奥行きを広げ、新しい世界へと旅立つような感覚にさせるのです。
こうした和声進行は、実はベートーベンの《運命》の中でも見ることができます。(譜例7)
筆者が大学生の頃、クラシック音楽を何も知らない友人に《運命》を聴かせたとき、ここの部分で「なんかSFみたいだ」と言われたことがありました。そこで筆者は、なるほどと思ったわけです。
ジョン・ウィリアムズの音楽の魅力
ここまで見てきて、ジョン・ウィリアムズの音楽の源流には、やはり過去の偉大な名曲があるのだなと感じました。彼の出世作である『ジョーズ』にしても、「ミ・ファ・ミ・ファ…」と迫ってくるようなあの感じ…。クラシック音楽でも古くから、音の感覚を詰めていくことによって緊張感を高めるという手法は多く使われています。こうした先人の残した遺産をうまく取り入れつつ、新しい表現を模索するジョン・ウィリアムズは、まさに温故知新の作曲家なのです。
ちなみに筆者は、個人的に最も好きな曲があります。映画『フック』のテーマ曲です。とても楽しい曲なので、ぜひご一聴下さい。
(文・一色萌生)