10月16日の放送は、「Road to ベートーベン(4) オペラ 不変のメッセージ」でした。その中で紹介されたベートーヴェン唯一のオペラ『フィデリオ』から「ドイツ語オペラ」をキーワードとして選んでみました。
ドイツ・オペラの前身、ジングシュピールとは?
ベートーヴェンが生きた18〜19世紀、オペラといえばイタリア・オペラが本道で、どの国の作曲家でもイタリア語の歌詞で書くことが通例となっていました。ベートーヴェンも30歳のときに、サリエリにイタリア語歌詞への曲付けを師事しています。それに先駆け18世紀半ばに、音楽における新しい試みを好んだドイツの作曲家ヒラーは、フランスのオペラ・コミックやイギリスのバラッド・オペラの影響から、ドイツ語詞による音楽劇『神託』を書きジングシュピールの形を整えていました。その後、モーツァルトの《魔笛》や《後宮からの誘惑》など、イタリア語以外の言語詞で書かれた作品が劇場で上演されるようになっていきます。
「ドイツ語オペラ」
ジングシュピールは、状況の説明や会話を表現するレチタティーヴォ(朗唱)の代わりに、メロディーをつけずにセリフを話し演じる部分を含む「音楽劇」―「歌う芝居」です。喜劇の要素が濃いジングシュピールは、1780年ごろからドイツ語演劇と併せて上演され始めました。これはマリア・テレジアから劇場経営の再建を命じられた、ヨーゼフ2世主導のドイツ語文化育成・推進政策が大きく関わっていました。宮廷仕えが大前提である音楽家たちへの影響は計り知れませんし、ベートーヴェンも例外ではなかったでしょう。この政策を礎に、ドイツ語演劇とジングシュピールは発展、そこにオペレッタやイタリア・オペラの豊富なレパートリーが絡み合い、今日知られるドイツ・オペラの形へ進化を遂げていきました。
(文・武谷あい子)