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HOMEインタビュー「運命」に導かれて―― 作曲家・ピアニスト加古隆の軌跡
インタビュー2026.3.12

「運命」に導かれて―― 作曲家・ピアニスト加古隆の軌跡

 重厚なメロディーが聴く者の心をつかむ《パリは燃えているか》の作者として広く知られるピアニスト・作曲家の加古隆さん。ジャズへの傾倒、三善晃との出会い、そしてパリでのオリヴィエ・メシアンへの師事――。クラシック、ジャズ、現代音楽と、さまざまなジャンルの音楽に魅了されながら独自の世界を築き、時代を超えて響く名曲を生み出してきた加古さんに、音楽との歩みをお話しいただきました。創作の原点となるピアノ・ソロ・コンサートへの思いは必見です。

―― 音楽との出会い、きっかけを教えてください。

小学2年生のころ、知人の家に1枚だけレコードがありました。一度聴いただけですがなぜかとても惹かれ、それを聴きたいがために何度も泊まりがけで遊びに行ったくらいです。その音楽がクラシックとかなんなのか、ジャンルのことも分からず、ただただ気持ちが良くて、すべて覚え込むほど聴いていました。
それがベートーヴェンの《運命》で、音楽との初めての出会いだったのです。

―― ピアノ以外の楽器を習われたことはあるのでしょうか? ご興味を持たれたことは?

小学校の担任の先生が音楽の授業を通して、この子は音感があると思ったそうで、僕の親に「ピアノを習わせたらどうか」と勧めてくれたのです。それ以降もピアノ以外の楽器は習っていません。

―― 加古さんはさまざまな楽器を操り、印象に残るメロディーを作られますが、10代のころ夢中になっていた音楽や作曲家はいますか? クラシックでもジャズでもポップスでも構いません。

クラシック音楽ではベートーヴェンやストラヴィンスキーが、その後夢中になったモダンジャズでは、ピアノのビル・エバンス、サックスのジョン・コルトレーンなどが好きでした。兄弟をみんな部屋から追い出して、大音響で聴いていた記憶があります。

―― 初めてプロの演奏家になろうと意識をされたのはいつごろでしょうか。

音楽の道に進もうと思ったのは、中学3年生の終わりごろです。ですが「プロ」という意識はまだ無かったと思います。
中学3年生の夏休み、虫捕りや野球など外で遊んで真っ黒になった僕の腕をピアノの先生が見て、「君は熱心にピアノの練習をしない方だし、ピアニストよりも作曲家になったらどうか」と言いました。レッスンに通ってくる弟子の中で唯一の男子だった僕に、もしかしたら先生は自分の叶わなかった夢を託したのかもしれません。そして高校受験の直前に、「大学は東京藝術大学の作曲科を目指そう」と決めました。

―― 藝大へ進まれてからはジャズの演奏に夢中だったとのことですが、どのようなきっかけで興味を持たれたのでしょうか。

高校1年生のときに、ジャズ好きな先輩が大阪のフェスティバルホールのジャズコンサートに誘ってくれました。司会者が「アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズ!!」と言うなり緞帳が上がり始め、途端にドラマーの叩くシンバル音が、僕にピューンと突き刺さるように飛んで来た。
生まれて初めてのジャズです。とにかくカッコ良かった。
すっかり虜になってしまい、翌日からレコード店で買うのはクラシックではなくジャズばかりになりました。ですから、藝大へ入った当初はジャズ好きの学生仲間と隠れて演奏をしていたのです。

―― やはり現代音楽への道は三善晃先生の影響が大きかったのでしょうか。

現代音楽を知ったのは、実はジャズよりも前で中学生のころです。いつも通っていたレコード店のご主人が、ある日、僕の知らないものを勧めてくれました。「いま、これが評判になっているよ」と言って、ストラヴィンスキーの3大バレエ組曲のアルバムを見せてくれたのです。
ジャケットが気に入った《火の鳥》を買って家に帰り、針を落として聴き始め……あまりの衝撃で、母親に小遣いの前借りをして残りの《春の祭典》《ペトルーシュカ》を買いに走った、というほどでした。これが僕の現代音楽との出会いです。
先ほども言いましたけれど、藝大入学当初はジャズ演奏に夢中でしたから、もしかしたらタイミングによってはそちらの道へ進んだかもしれません。ところがそこで三善晃先生に出会ったのです。彼からは作曲のすばらしさを教わりましたし、その姿を見ていて僕も作曲の勉強を続けようと決心しました。

―― やはり三善晃さんとの出会いがターニングポイントなのですね。パリへ行かれてからは巨匠、オリヴィエ・メシアンに師事されています。メシアンに師事することは入学前から決まっていたのでしょうか。

渡仏する前に考えていた先生は、すでにパリ国立高等音楽院を退職することになっていたので、師事できる可能性があるのは高名なメシアンでした。いまと違ってインターネットもないしお顔も知らなかったのですが、音楽院の教務でメシアンの教室を教えてもらい、ドアをノックして「あなたはメシアンさんですか?」と尋ねました。もちろんフランス語は日本で勉強しましたよ。
メシアンはすぐに僕の作品を見て、「ぜひ私のクラスにいらっしゃい」と言ってくださいました。

―― メシアン門下だったころの印象的なエピソードがございましたら教えてください。

ある日、教室でふたりきりになったとき、メシアンがおっしゃった言葉が忘れられません。
「あなたは日本人です。それはあなたにとって大きな宝物です。そのことを深くお考えなさい」
若かった私は、そのときには意味がよく理解できていなかったのですが、いまではすばらしいことを教えていただいたと、その言葉を大切にしています。

―― 作曲スタイルについておうかがいします。作曲の作業はピアノで行いますか? DTMなどのコンピューターも使用されますか?

基本的にはピアノに向かってやりますが、曲の最終的な確認作業ではDTMを使うこともあります。フレーズは簡単には降ってきませんが、探し続けていればいつか降ってきますよ。

―― 今回行われるツアー「加古隆 ピアノソロ・コンサート2026」は、《神のパッサカリア》のピアノ・ソロ・バージョンが初演だとうかがいました。作曲してから月日が経った作品をアレンジされたかと思いますが、どのような気持ちで作品と向き合ったのでしょうか。

《神のパッサカリア》は、もとはオーケストラ曲として発想し書いたものです。なので、ピアノ・ソロでは表現しきることは難しいと思っていました。コンサートツアーのスタートに合わせてピアノ・ソロ楽譜集が発売されることとなり、独奏曲としてこの曲も入れたいというご担当者の強い要望に応えて、この作品に向かい直しました。
譜面に向かいながらとても良いイメージが湧いてきて、ソロ曲として発表できてうれしいです。

―― 加古さんのお名前を聞いていちばん最初に思い浮かぶのはやはり「映像の世紀」の《パリは燃えているか》ですが、今回のプログラムにも入っていますね。この作品はどのように生まれたのでしょうか。

1995年の「NHKスペシャル 映像の世紀」のテーマ曲として作曲しました。1895年に映像が発明されてから100年という、壮大な歴史のロマンを謳いたい、と思いが込められています。
「パリ」という言葉には人間の生活や文化が象徴的に表れ、「燃えているか」という言葉には、同じ人間が繰り返す戦争や破壊のイメージが暗示されます。しかし、パリは燃えることなく現在も私たちの前に残されているのです。

―― これまで作られた作品で印象に強く残っているものがございましたら教えてください。

どの曲にも強い思い出が残っていますので、とくにコレというのは難しいのですが、あえて挙げるなら《ポエジー》です。この曲が、僕の音楽スタイルを見つけるキッカケとなった作品ですから。

―― 今回のプログラムのなかで、最初に決まった作品はどちらでしょうか。なぜその作品が思い浮かび、決まったのでしょうか。

今回はひとつの曲というよりは「エポックメイキングな作品」をコンサートの柱にしようと考えました。具体的には《パリは燃えているか》《ポエジー》《いにしえの響き》《エンプティー・トランス》の4曲です。 どれもすべて僕の曲で、言ってみれば僕の子供ですから、特にコレがお気に入り、というのは難しいですね。すべて大切な作品です。なので、オーケストラ版とピアノ版でも特に違いはありません。
加古隆というひとりの音楽家の50年におよぶ音楽の変遷、そしてピアノという楽器の音色の多様さと美しさを感じていただければうれしいですね。

―― ららら♪クラブは、クラシック初心者へクラシックの楽しさや魅力を広め、コンサートへ足を運ぶ機会を増やす後押しをしているウェブマガジンです。加古さんの考える、コンサートの楽しさや魅力を教えてください。

時間と場所が決まったコンサート会場に集うこと自体、忙しい現代人には特別なことです。その特別感を味わうということが日常とはちょっと違うし、高揚感もあるはずです。そういった感覚は人を魅力的にします。 そこで奏でられる音は、その場で消え、二度と同じものを繰り返すことはできません。
コンサートホールで生の奏者の心のエネルギーが聴き手の心に届き、またそのエネルギーが奏者にも伝わる。僕はこれほど贅沢なことは無いのでは?と思っています。ぜひ、コンサートにいらしていただきたいですね。

―― 興味深く楽しいお話をありがとうございました。コンサートへ足を運ぶファン、読者へメッセージをお願いします。

会場へ来てくださった方々の心に触れ、心震えるようなコンサートにします。「元気になった、来て良かった」と思っていただけたらうれしいです。

<取材・文・構成 浅井彩>

今後の公演情報

公演名 加古隆ピアノソロ・コンサート2026
日時・会場・お問い合わせ ●郡山公演
4月11日(土) 14:00開演(13:30開場)
けんしん郡山文化センター(郡山市民文化センター)中ホール
お問い合わせ/キョードー東北 TEL:022-217-7788

●仙台公演
4月12日(日) 14:00開演(13:30開場)
太白区文化センター楽楽楽ホール
お問い合わせ/キョードー東北 TEL:022-217-7788

●大阪公演
4月18日(土) 15:00開演(14:30開場)
住友生命いずみホール
お問い合わせ/キョードーインフォメーション TEL:0570-200-888

●福岡公演
4月19日(日) 14:00開演(13:30開場)
FFGホール
お問い合わせ/キョードー西日本 TEL:0570-09-2424

●愛知公演
4月25日(土) 14:00開演(13:30開場)
しらかわホール
お問い合わせ/クラシック名古屋 TEL:052-678-5310

●東京公演
5月2日(土) 14:00開演(13:30開場)
サントリーホール
お問い合わせ/キョードー東京 TEL:0570-550-799

●北海道公演
5月9日(土) 13:30開演(13:00開場)
札幌コンサートホール kitara小ホール
お問い合わせ/テレビ北海道 TEL:011-351-7277
出演 [ピアノ]加古隆
プログラム パリは燃えているか
ジブラルタルの風
ポエジー
黄昏のワルツ
秋を告げる使者
いにしえの響き
グラン・ボヤージュ
風のリフレイン
ザ・サード・ワールド
睡蓮のアトリエ
ノスタルジックなワルツ
博士の愛した数式~愛のテーマ
白梅抄
神のパッサカリア(ピアノソロバージョン・初演)
エンプティー・トランス(Ushio AMAGATSU に捧ぐ)
※演奏曲目は変更になる場合がございます。
チケット 全席指定:7,700円
※東京・大阪公演は8,800円
詳細 詳細はこちらから

加古隆(Takashi Kako)

東京藝術大学・大学院作曲研究室修了後、フランス政府給費留学生として渡仏。パリ国立高等音楽院にて現代音楽の巨匠とも称されるオリヴィエ・メシアンに師事し、アカデミックな作曲家としての道を目指していたが、1973年のパリでフリージャズ・ピアニストとしてデビューするというユニークな経歴を持つ。76年に、音楽院の審査員全員一致による作曲賞(Prix de Composition)を得て卒業。
帰国後はピアノ・ソロ曲からオーケストラ作品まで幅広い分野の作品、映画音楽、ドキュメント映像の作曲も数多く、自身が演奏した60以上のアルバムを発表している。
代表作に、パウル・クレーの絵の印象から作曲したピアノ組曲「クレー」、NHKスペシャル「映像の世紀」のテーマ曲「パリは燃えているか」がある。
2010年にピアノ四重奏団「加古隆クァルテット」を結成し、エイベックス・クラシックスより「QUARTET」「QUARTETⅡ」「QUARTETⅢ 『組曲・映像の世紀』」を発表。
作曲家・ピアニストとして活躍を続け、演奏家としての音色の美しさから「ピアノの詩人」とも評される。
映画音楽での受賞は、1998年モントリオール世界映画祭のグランプリ作品、マリオン・ハンセル監督「The Quarry」の音楽で最優秀芸術貢献賞。
国内作品では、毎日映画コンクールの音楽賞【小泉堯史監督「阿弥陀堂だより」(02)「博士の愛した数式」(06)】、日本アカデミー賞優秀音楽賞【杉田成道監督「最後の忠臣蔵」(10)、小泉堯史監督「阿弥陀堂だより」「蜩ノ記」(14)、木村大作監督「散り椿」(18)】など。
2016年度(第68回)日本放送協会 放送文化賞を受賞。
2023年はパリでのデビューから50周年となり、記念アルバムとして自選映像音楽集「KAKO DÉBUT 50」をエイベックスから発表。

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