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HOMEインタビューヴァイオリンは「得意だなと直感した」―― ヴァイオリニスト・神尾真由子が歩んだ音楽の道
インタビュー2026.1.21

ヴァイオリンは「得意だなと直感した」―― ヴァイオリニスト・神尾真由子が歩んだ音楽の道

©Makoto Kamiya

 2007年、チャイコフスキー国際コンクール。世界が注目する大舞台で頂点に立ったヴァイオリニスト、神尾真由子さん。凛とした佇まいと圧倒的な演奏で知られる彼女ですが、その素顔は驚くほどに気さくで、ユーモアにあふれています。
 「ヴァイオリンは得意だなと直感した」と語る4歳の記憶から、ロシアで経験したドストエフスキーさながらの文化衝撃、そして自宅でペットの「うずら」に癒やされる意外な日常まで。上原彩子さんとの共演を前に、音楽家としての歩みと、いま、この瞬間の想いをたっぷりとお話いただきました。

ヴァイオリンとの出会い―― 「おじいちゃんの夢」と「ちゃぶ台のステージ」

―― ヴァイオリンとの出会いは、お祖父さまの影響が大きかったそうですね。

演奏会後、祖父母と

はい。祖父は戦前までヴァイオリンを弾いていて、「本当は音楽家になりたい」という夢を持っていたそうです。家族の誰かに本格的に音楽をやってほしいという希望があったみたいで。
3歳からピアノを習っていたのですが、練習もしないし上達も遅い私を見て、「ピアノは下手だから、ヴァイオリンに変えたらどうだ」と祖父が言い出したのが始まりでした。

―― 4歳で初めてヴァイオリンを手にした瞬間、どう感じましたか?

「こっちの方が得意だ! これならいける」とはっきり感じましたね(笑)。ピアノだと5分も経てば忘れてしまうのに、ヴァイオリンは一度できたことはもちろん、二度目も忘れずにすんなりできる。その実感がうれしくて、その日のうちに「続けたいから楽器が欲しい」と言って、近所の教室からタダで貸していただいて帰りました。
そのころから、ちゃぶ台をステージに見立てて、その上に乗ってギコギコ弾いていたそうです。

―― ご実家は音楽一家だったのでしょうか。

祖父がリーダーシップを取って、親戚が集まると必ず誰か楽器を持たされて一緒に弾く、という恒例行事がありました。叔父は大学でヴァイオリンをしていたのに、祖父に「サックスをやれ」と言われ、それが下手だと今度は「アコーディオンをやれ」と(笑)。そんな環境でしたから、演奏家が職業だということは幼心に理解していました。

憧れの五嶋みどり、そして留学とコンクール

9歳、五嶋みどりさんが選んだ4人のマスタークラスコンサートにて最優秀賞を受賞

―― 子どものころに衝撃を受けた演奏家はいますか?

9歳か10歳のころに、テレビで聴いた五嶋みどりさんの演奏です。それまでは退屈に感じていた、ゆったりとした静かな部分に強く心を奪われました。「こんな世界があるんだ」と衝撃を受けて以来、ずっとあこがれの人です。10歳でニューヨークに呼んでいただいた際は、みどりさんのご自宅で毎日レッスンを受け、本番も聴かせていただきました。

―― みどりさんの存在を知る前は、ハイフェッツがお好きだったとか。

最初に習った先生が「手本にするならヤッシャ・ハイフェッツかアルテュール・グリュミオー」とおっしゃって。CDやレコードの写真を見ると、祖父に顔がそっくりだったんです(笑)。「おじいちゃんに似てるな」という親近感もあって、4歳のころからずっと聴いていましたね。

―― 10代でアメリカへ。奨学金の支援も手厚かったそうですが。

ありがたいことに、ジュリアードや私立中学、日本でもローム ミュージック ファンデーションなど、多くの支援をいただけました。それでも足りない分は、会社を経営していた祖父が「言い出した責任」としてサポートしてくれました(笑)。私にとっては、国を選ぶというより「ご縁のある先生がいる場所へ行く」という感覚でしたね。

―― その後、2007年のチャイコフスキー国際コンクールで優勝。16歳のときにも出場の打診があったそうですね。

当時、16歳のときはまだ実力が伴わないと判断して見送りました。私は決して安定型ではなく「一発勝負」に弱いタイプだったのです。プレッシャーがかかるなか、10回中1回の悪い方が出る可能性が高かった。開催が5年空き、自分の中で実力が安定してきた21歳というタイミングは、結果的にベストだったと思います。

10歳、シャルル・デュトワ指揮 スーパーサウンド・オーケストラと、ラロ《スペイン交響曲》の第5楽章を共演して10歳でソロデビュー。リハーサルの様子(会場:Bunkamura オーチャードホール)

ロシアの精神性と、どうしても馴染めなかった「バターとパン」

―― ロシアでの生活も長かった神尾さんから見て、チャイコフスキーやプロコフィエフはどう映りますか?

チャイコフスキーは最も「ロシア人らしい」と感じます。情に厚く、同じことを何度も大きな声で熱く語るような……。ロシアのパーティーって、「さようなら」と言ってから2時間くらい引き止められて、お酒を勧められるんです(笑)。そんな、痒いところに手が届きすぎるくらいの感情の濃さが彼らしい。
一方のプロコフィエフは、政治的抑圧のなかでの抑制や、ロシアの伝統的な魔女のモチーフなどが現れる「ソビエトらしさ」を感じます。

―― ロシアの文化にはすぐに馴染めましたか?

トルストイやドストエフスキーを読んで「借金してまで人をもてなすなんて、この人たち頭おかしいんじゃないか」と思っていましたが、行ってみたらそのまんまの世界がありました(笑)。 私はおしゃべりが好きなので、長引いて帰りの時間が読めないこと以外は楽しく過ごしていました。
ロシア語は中学生レベル程度ですが、皆さん構わず話しかけてくださいます。そういえば、レーニンについて語った動画を作りたいということで、レーニンの博物館をまわって意見を求められて、「勉強になりました!」をひたすら繰り返すビデオを撮ったこともありましたよ(笑)。
ただ、食べ物だけは……。私、洋食があまり好きではないんです。バターや乳製品が苦手で、パンよりもお米が恋しくて。ロシアではないですが、南米ツアーでクリームソースばかり出てきたときは、さすがにちょっとうんざりしましたね。トマトソースを頼んだら「トマトクリームソース」が出てきたりして(笑)。

上原彩子さんとの共演―― 「煽られる方が好き」

―― 今回共演される上原彩子さん、第一印象はいかがでしたか?

勝手なイメージで「ストイックでピアノ一筋」な方かと思っていたら、実際はすごく気さくで、おしゃれで小柄で、かわいらしい方でした。

©Makoto Kamiya

―― 共演してみて感じる彼女の魅力は?

本番になると、良い意味で空気を読みすぎず、ガンガン主張してくださる。私はピアニストに煽られるくらいの方が好きなんです。彼女のようにカリスマ的な存在感で、音量も遠慮なく弾いてくださる方との共演は、新しい発見があって本当に楽しい。特にプロコフィエフは、ピアノが曲の魅力を左右すると言っても過言ではないので、彼女の演奏は本当にすばらしいです。

癒やしは「うずら」と「ニュース」、そしてこれからの活動

―― いまは日本での生活が中心とのことですが、お忙しい毎日のリフレッシュ方法は?

息子が卵から孵した「うずら」が子孫を増やして、子ども部屋にたくさんいるんです。その子たちを“もふもふ”するのが一番の癒やし。よくなついていて、おとなしく抱っこされてくれます。
あとはニュースが好きですね。家事をしながら政治や経済のニュースを日本語や英語でチェックしています。

―― 息子さんは現在10歳。お子さんがいるなかで練習時間はどう確保されていますか?

それが、もうずっと横にひっついているんです。トイレの前で待っていたり、練習中も見張られている気分(笑)。だから最近は「お風呂沸かしてきて」「お皿洗いよろしく」と仕事を投げて、こき使っています(笑)。喜んでやってくれるので助かっています。

―― 使用されている1731年製ストラディバリウス「ルビノフ」についても教えてください。

2017年からお借りしていますが、手にした初日から驚くほどの音量が出ました。ふつう、ストラディバリウスは鳴らすのが難しく、気難しくてねじ伏せるのに苦労するものなのですが、この楽器は最初から受け入れてくれたような感覚がありました。

―― ありがとうございました。最後に、今後の展望とお客さまへのメッセージをお願いします。

これからは演奏だけでなく、音楽のマーケットを広げる活動にも力を入れたいと思っています。SNSもそのひとつ。このままではクラシック業界が先細りになってしまう危機感があるからです。
今回のコンサートは、自分でも「本当に自信がある」と言い切れるプログラムです。上原さんと「いい演奏会だよね」と言い合える手応えを感じています。最後まで聴いていただければ、必ず有意義な時間だったと感じていただけるはずです。

<文・取材 尾崎羽奈>

©Makoto Kamiya


今後の公演情報

公演名 神尾真由子×上原彩子 デュオ・リサイタル
日時 2026年3月8日(日) 15:00開演(14:15開場)
会場 豊田市コンサートホール
出演 [ヴァイオリン]神尾真由子
[ピアノ]上原彩子
プログラム チャイコフスキー:懐かしい土地の想い出 Op.42、ワルツ・スケルツォ Op.34
ラヴェル:夜のガスパール
プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第1番 ヘ短調 Op.80
チケット 全席指定:1階席6,000円 バルコニー席5,000円 U25 2,000円
詳細 詳細はこちらから
お問い合わせ 東海テレビ放送 事業部
TEL:052-954-1107(平日10:00~17:00)

神尾真由子(Mayuko Kamio)

4歳よりヴァイオリンをはじめる。2007年に第13回チャイコフスキー国際コンクールで優勝し、世界中の注目を浴びた。ニューヨーク・タイムズ紙でも「聴く者を魅了する若手演奏家」「輝くばかりの才能」と絶賛される。
国内の主要オーケストラはもとより、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、BBC交響楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団、バイエルン州立歌劇場管弦楽団、ワルシャワ 国立フィルハーモニー管弦楽団などと共演するほか、サン・モリッツ、コルマール、ヴェルビエなどの著名フェスティバルに登場している。
指揮者では、シャルル・デュトワ、ムスティスラフ・ ロストロポーヴィチ、エリアフ・インバル、ウラディーミル・スピヴァコフ、ウラディーミル・アシュケナージ、イルジー・ビェロフラーヴェク、イヴァン・フィッシャーなどと共演。ニューヨーク、ワシントン、サンクトペテルブルク、フランクフルト、ミラノなどでリサイタルを行っている。
2020年10月「JSバッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ」の新譜を発表。BSテレ東「エンター・ザ・ミュージック」における『マユコ先生のヴァイオリン・レッスン!』では、第一線で活躍するヴァイオリニストでありながら指導者としての顔も各方面より認められている。
これまで里屋智佳子、小栗まち絵、工藤千博、原田幸一郎、ドロシー・ディレイ、川崎雅夫、ザハール・ブロンの各氏に師事。大阪府知事賞、京都府知事賞、第13回出光音楽賞、文化庁長官表彰、ホテルオークラ音楽賞はじめ数々の賞を受賞。
楽器は宗次コレクションより貸与されたストラディヴァリウス1731年製作「Rubinoff」を使用している。東京音楽大学教授。

神尾真由子 公式サイト
神尾真由子 Facebook
神尾真由子 公式Instagram

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