<2025年3月3日 東京・紀尾井ホール> 山形交響楽団の首席チェロ奏者にして、室内楽やソリストとしても幅広く活動する矢口里菜子。若手から中堅にさしかかるこの時期、勢いに加えて表現力も厚みを増し、今まさに聴きどきの演奏家だ。そして、88歳の現在も旺盛な演奏活動を続けている館野泉。2002年に脳溢血で倒れ、右半身不随となるも、しなやかにその運命を受け入れて「左手のピアニスト」として復活した、クラシック界のレジェンド的存在だ。
ふたりはこの数年、吉松隆、平野一郎という現代作曲家の作品で共演を重ねている。平野の《鬼の学校》は、ピアノの館野が伝道師、その弟子の鬼たちが弦楽四重奏という設定のユニークな作品。矢口はチェロで参加しており、全国で16回の公演を行った。
プログラムはモーツァルトが没年に書いた《女ほど素敵なものはない》から始まる。光永浩一郎がチェロとピアノのために編曲した。以降は現代曲が続く。エストニアの作曲家ペルトの《鏡の中の鏡》は、静謐(せいひつ)な祈りのような空気感が魅力的。松平の《INCRNTION》は「前衛的精密な作品のようでいて悪戯心も旺盛。聴く人を吃驚させるような仕掛けが随所にみられる」(フライヤー記載の館野の文より・以下同)。マグヌッソンの《チェロ・ソナタ》は「心を違う世界に運ばれる作品」、cobaの《Tokyo Cabaret》は「様々な汗や欲望が渦巻き、混沌としたエネルギーが充満している」と表現している。
年齢差60近い矢口と館野だが、ふたりの回を重ねた共演で培った、息の合った演奏を聴かせてくれるに違いない。
<文・小出和明>
公演名 | 矢口里菜子 & 舘野泉デュオ・リサイタル |
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日時 | 2025年3月3日(月) 19:00開演(18:30開場) |
会場 | 紀尾井ホール |
出演 |
[チェロ]矢口里菜子 [ピアノ]舘野泉 |
プログラム | モーツァルト/光永浩一郎(編曲):《女ほど素敵なものはない》の主題による8つの変奏曲 ペルト:鏡の中の鏡 松平頼暁:Incarnation Vcと左手Pfのための マグヌッソン:チェロ・ソナタ coba:Tokyo Cabaret(チェロとピアノのために) |
チケット | 全席指定:S席5,000円 A席4,000円 学生3,000円 |
お問い合わせ | ジャパン・アーツぴあ TEL:0570-00-1212 |