
<2026年1月17日 長野市芸術館> 2020年より長野市芸術館のレジデンス・クァルテットとして活動を続ける、リヴァラン弦楽四重奏団。メンバーは、東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスターの近藤薫、チャイコフスキー国際コンクール最高位の川久保賜紀、NHK交響楽団首席ヴィオラ奏者の佐々木亮、そして元ゲヴァントハウス管弦楽団首席チェリストのクリスティアン・ギガーという、まさに錚々たる顔ぶれだ。「弦楽四重奏は、4人のソリストによる知的な会話」と言われることがあるが、リヴァランの演奏はまさにその言葉を体現している。
今回のプログラムは、モーツァルト10代の若々しい作品《ディヴェルティメント》K.138から幕を開ける。続いて演奏されるのは、ヴィクトル・ウルマンの弦楽四重奏曲第3番。この作品は、第二次世界大戦中のテレージエンシュタット収容所で書かれた。この収容所では、ナチスによるプロパガンダの一環として一定の文化活動が許されており、ウルマンは仲間の音楽家とともに、コンサートを企画し、批評を書き、新しい音楽を生み出し続けた。彼はそのなかでこう記している。
「私たちは決して、バビロンの河のほとりで泣き暮らしていたわけではない。芸術への取り組みは、私たちの“生きようとする意志”にふさわしいものであった」
極限の環境のなかでも音楽を通じて人間の尊厳を保とうとしたウルマンの姿勢は、この作品の清澄な響きに深く刻まれている。終楽章に漂う明るさは、絶望の闇を見つめながらもなお、光を信じた精神の証のようだ。しかし運命は残酷だった。ウルマンは1944年10月、アウシュビッツ収容所へ移送され、2日後に毒ガスによって命を落としたと伝えられている。
後半はチェリスト遠藤真理を迎えて、シューベルトの弦楽五重奏曲 ハ長調。昨年から「プラス・ワン」として五重奏にも取り組むようになったリヴァランが、その真価を発揮する。
モーツァルトとシューベルトの天上の響きのあいだに、ウルマンの魂の音楽が置かれる構成は、まるで一幅の音楽曼荼羅のようだ。
「リヴァラン」という名前は、ジェイムズ・ジョイスの最晩年の小説『フィネガンズ・ウェイク』の冒頭に登場する造語に由来する。メビウスの輪のように“終わりなき流れ”を象徴するこの言葉のように、リヴァラン弦楽四重奏団の音楽もまた、過去と未来、光と影をめぐりながら、絶え間なく流れ続けている。
<文・尾崎羽奈>
| 公演名 | 近藤薫プロデュース 「リヴァラン弦楽四重奏団 #5 +1(プラス・ワン)」 |
|---|---|
| 日時 | 2026年1月17日(土) 14:00開演(13:30開場) |
| 会場 | 長野市芸術館 リサイタルホール |
| 出演 |
【リヴァラン弦楽四重奏団】 [ヴァイオリン]川久保賜紀、近藤薫 [ヴィオラ]佐々木亮 [チェロ]クリスティアン・ギガー [チェロ]遠藤真理(※ゲスト) |
| プログラム |
モーツァルト:ディヴェルティメント ヘ長調 K.138 V.ウルマン:弦楽四重奏曲第3番 Op.46 シューベルト:弦楽五重奏曲 ハ長調 Op.163, D956 *チェロ:遠藤真理 |
| チケット | 全席指定:4,000円 |
| お問い合わせ |
長野市芸術館チケットセンター TEL:026-219-3191 |

















