昨年デビュー35年を迎えた日本を代表する人気オペラ歌手、錦織健さん。ららら♪クラシック番組には何度も出演している錦織さんが、いよいよ来たる2月7日(月)に開催予定の「ららら♪クラシックコンサートvol.13 美しい日本の歌 歌い継ぐ音楽のこゝろ」に登場します。そこで、今回のららら♪クラシックコンサートで披露してくださる曲について、またオペラ歌手が日本語の歌を歌うことの聴きどころ楽しみどころのお話を伺いました。
© 大八木宏武(都恋堂)
〝美しい言葉〟に宿るもの
――錦織さんが今回歌われるのは《さくらさくら》、《蘇州夜曲》、《日日草》、《風が吹いている》と背景や時代が異なる4曲ですね。
その中でも特に《さくらさくら》は誰しもが知る名曲です。だからこそ誤摩化しがききません。
この曲に限らず、4曲においてはひとつひとつの言葉、韻、古風な日本語さばきといった、発音をぜひ聴いて頂きたいと思っています。
実は《日日草》は以前コンサートで歌うまで知りませんでしたが、とても素晴らしい作品なのです。不慮の事故で手足の自由を失いながら、口に筆をくわえて詩や絵を描かれている星野富弘さんの詩なのですが、その美しさからこれまで多くの方がメロディーをつけています。今回歌う《日日草》は、共演する加羽沢美濃さんが作曲されています。その関係もあり是非にとこのコンサートの選曲にとなりました。詩の言葉はこびはシンプルで直接的で、そこはかとない寂しさがあり、臆面もなくその心情を吐露していて共感を呼びやすい。そんな美しい言葉に宿るものを、加羽沢さんのメロディーに重ねて聴く人に伝えられればと思っています。感動されると思いますよ。
――《風が吹いている》は人気バンドグループの“いきものがかり”のヒット曲。ポップスで雰囲気がガラリと変わりますね。
そうですね、ポップスのヒット曲ですからね。ロンドン五輪のテーマソングだっただけあって、力強く、勇気づけるような歌詞が印象的ですね。震災後の“支援・励まし”に歌われることも多かったように思います。いきものがかりの曲ですから若々しさを感じますし、テンポいいメロディーも素晴らしいですよね。ポップスの良さである、サビの入りの清々しさ! を保ちながらも“まっすぐに歌い上げる”ことを意識したいと思います。
この“まっすぐに歌い上げる”は、オペラ歌手が歌うポイント=聴きどころといえるかもしれません。“ずりあげ、すりさげ、遅れ歌い”ではなく、文字通りまっすぐに歌詞とメロディーをキレイに丁寧に、そして忠実に表現することです。これらを特に感じてもらえればと思います。
彩色豊かなレパートリー
――錦織さんは、先のららら♪クラック番組でクイーンの曲を披露されたように、多彩なレパートリーが特徴です。オペラからロックやポップス、日本歌曲とこれまでも幅広く舞台で披露されCDもリリースされています。どのようなジャンルの音楽も歌う愉しさを根底に持っていらっしゃる姿が印象的ですが、それはどのようなところから生まれているのでしょう?
日本の音楽大学の声楽教育はイタリア語やドイツ語などの歌曲やオペラ作品が学びの中心です。指導法もかなり研究されています。しかし日本の歌曲となると、学校にもよりますが習得の流れが確立されてはいないというのが現状です。メソッドなどもなく個人にまかされていたので、いい意味で自由に表現できる面白さがあって、僕は自分なりに詩に含まれる言葉の意味を隅々まで勉強をしながら歌ってきました。それが背景にあったので、日本歌曲を含む“レパートリーの多彩さ”に繋がったのかもしれません。そしてもうひとつは、驚かれるかもしれませんが、僕は元々、洋楽やポップスが好きで、その延長に歌や声楽が存在するということもあるかもしれません。
私生活の話題
――ところで、錦織さんの最近の私生活でのお話し頂けるニュース&トピックはありますか?
コロナ禍ですからね、ウチごもりで……。ニュース&トピックという訳ではないのですが、相変わらずの趣味のゲームかなあ。ただしひとりでじっくりプレーするオフラインのみで、オンラインはやりません。昔からゲーム好きで主題歌や挿入歌の仕事もずいぶんやらせて頂きました。その際、制作関係者に「こんなゲームを作ってください!」とマニアックな要望てんこ盛りで告げると、「マニアに合わせてゲーム作っても一般の人には受けないですからね」と厳しいながら学びのある言葉が返ってきました(笑)。
デビューから35周年を経て
――昨年にはデビュー35周年を迎えられました。35年の年月を振り返り、そしてこれからの活動の方向をどのようにお考えですか。
私はデビューすぐの頃は民放の歌謡番組によく出演していました。オペラ歌手が出演して歌うことに評論家や業界大御所からの否定的な意見もあったわけですが、多くの視聴者に受け入れられ応援して頂いたと思っています。だから今も歌い続けられている、というのはあるかもしれません。その経験と私自身の洋楽ポップス好きが、歌うことへの原動力になってきたと感じています。先ほど“多彩なレパートリー”とおっしゃいましたが、まさにそれが僕のスタイルだと思うので、オペラは当然として、応援してくださる声に積極的に耳をかたむけて今後も多彩なプログラムのコンサートをお届けしていきたと思います。
届けたい、生の声を
――この状況や世相だからこそ、会場に足を運ぶことを心待ちにしているお客様が多くいらっしゃいます。
公演中止が重なり、オンラインの公演の配信が一時盛んになりましたが、やはり会場で生声が体に迫る空気を感じて頂きたいと思います。“ホールでの公演もマイクを通しての歌声だろう”と思われている方も中にはいらっしゃるかもしれませんが、改めて言いたいのは「生の声でお届けしています」ということです。生声でどれだけ届くように歌い上げるかにオペラ歌手は人生の80%を懸けているといっても過言ではないです(笑)。マイクを通すと、発声から全て違う手法で歌わなければいけなくなります。今回の会場も2000人規模ですが、そのホールの隅々に生声を届ける、それがオペラ歌手の力であり醍醐味です。先ほど話した“美しい言葉”を“まっすぐに歌い上げる”ことと、マイクを通さない歌声から迫り来る音質と声量を、ぜひ会場でお楽しみください。
<取材・文 吉村麻希>
インフォメーション
ららら♪クラシックコンサート Vol.13
美しい日本の歌 歌い継ぐ音楽のこゝろ
〜童謡・唱歌・愛唱歌・日本歌曲の美しさを識る〜
詳細こちら
日時 | 2022年2月7日(月)14:00 開演(13:00 ロビー開場予定) |
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会場 | 東京芸術劇場 コンサートホール |
出演 | 錦織健 小林沙羅 今井俊輔 藤木大地 山田姉妹 ヴィタリ・ユシュマノフ 加羽沢美濃(作曲・ピアノ) 山岸茂人(ピアノ) 高橋克典(司会) 金子奈緒(司会) |
曲目 | 「花」/「荒城の月」/「かなりや」/「ペチカ」/「この道」/「初恋」/「星めぐりのうた」/ 「秋桜」/「愛燦燦」/「いのちの歌」/「風が吹いている」/「日日草」 他 ※後日追加発表があります。 ※曲目は変更になる場合があります。 |
お問い合わせ | ウドー音楽事務所 TEL:03-3402-5999 火曜・水曜・金曜 12:00〜15:00 (※月曜・木曜・土曜・日曜・祝日はお休み) |
錦織健(テノール)
国立音楽大学卒業。文化庁オペラ研修所第5期修了。文化庁在外研修員としてミラノに、また、五島記念文化財団の留学生としてウィーンに留学。
第17回ジロー・オペラ賞新人賞、第4回グローバル東敦子賞、第1回五島記念文化賞新人賞、第6回モービル音楽賞洋楽部門奨励賞受賞。
1986年「メリー・ウィドウ」カミーユ役でデビュー、以後、「こうもり」アルフレード、「魔笛」タミーノ、「セヴィリアの理髪師」アルマヴィーヴァ伯爵、「アルバート・ヘリング」アルバート、「ポッペアの戴冠」ネロ、「スペインの時」ゴンサルヴェ、「リゴレット」マントヴァ侯爵、「ドン・ジョヴァンニ」ドン・オッターヴィオ、「椿姫」アルフレード、「蝶々夫人」ピンカートン、「学生王子」カール・フランツ役等の他、三木稔作曲「静と義経」や、三枝成彰作曲「忠臣蔵」といった邦人作品にも意欲的に出演し、いずれも好評を博している。
また、ベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」「交響曲第9番」、ヘンデル「メサイア」、モーツァルトやヴェルディの「レクイエム」等のソリストとして高く評価を受け、親しみやすいトークを交えたリサイタルでも、多くのファンを魅了している。この他、2000年、03年のNHK紅白歌合戦への出演や、2012年より6年間NHK-FM「DJクラシック」のパーソナリティーを務めるなど、テレビやラジオ番組への出演も多い。2021年5月よりNHK「ラジオ深夜便」のミッドナイトトークゲストとして隔月で出演中。
2002年からはオペラ・プロデュースも始め、2015年には第6弾モーツァルト作曲「後宮からの逃走」も手がけた。
CDは、ポニー・キャニオンより「恋人を慰めて」「すみれ」「砂山」「秋の月」「錦織健 日本をうたう~故郷~」「錦織健 アリアを歌う」「錦織健プラチナム・ベスト」等が発売されている。