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- 藝大時代からインストゥルメンタル・バンド「G-CLEF」で活動するなど、クラシック音楽というジャンルに限らずさまざまな音楽を奏で続けているチェリスト、柏木広樹さん。「音楽って、表現って自由でいいんだ」をモットーに、多くの音楽の楽しさを伝え続けています。
チェロを始めたきっかけからワールド・ミュージックに出会った大学時代、そしてさまざまな楽器をそろえた編成でおこなうコンサートまで、たっぷりお話をうかがいました。
チェロを選んだわけではなく、そこにあったのがチェロだった
“母親に習う”“親に習う”というのが本当に嫌で、これをやめるためにはどうすれば良いか……と考えたときに思いついたのが、「ほかの楽器ならなんでもやるから」とお願いすること。そのとき、たまたま兄がヴァイオリンを習っていてピアノ・トリオを演奏するにあたって、足りていない楽器がチェロだ、ということで、チェロがスタンバっていたのが始めたきっかけでした。なので、チェロを選んだわけではなく、そこにあったのが、チェロだったんです(笑)。
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- おさらい会でバルトークの《子供のために》を弾く
ぜんぜん嫌いじゃなかったし、そもそも音楽自体が大好きだったのですが、ただただ、“親に習う”のが本当に苦痛でした。
親が料理を作っているときでも、僕がピアノを弾いていたら「音が間違ってる」と声が飛んできたり、学校から帰ってきて野球に行きたいときにも「5回弾いてからにしなさい」と言われたり……。そういうエピソードが苦痛だっただけで、ピアノ自体は本当に好きでした。
だいたいは幼稚園~小学生から楽器を始めて、その流れで音大に行って、という方が多いと思うんです。でも僕の場合は、小学生のときこそしっかりチェロを弾いていましたが、中学生のときはスポーツがとても好きでそちらに力を入れていたため、チェロは趣味でした。その後、高校受験でことごとく失敗し、高校に入ってから「やっぱり音楽をやらせてくれ、チェロをやらせてくれ」と親に泣きつきました。そこからプロを意識し始めました。
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- チェロを始めたころ
あと、読者のみなさんにオススメしたい楽器は、絶対にピアノです。音楽の要素はリズム・和音・メロディー。これを一気にできる楽器が、実はピアノなんです。ギターも近いけどね。
ピアノができると音楽の幅が一気に広がります。僕は途中でリタイアしたにも関わらず、受験の副科実技でピアノを選んでめちゃくちゃ苦労したのですが、ピアノをちゃんと習っておけばよかったなと思う今日このごろです。
ブラジル音楽との出会い
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これも、人との出会いがきっかけです。当時おもにブラジル音楽で活動していた、越田太郎丸くんという同い年のギタリストがいまして。そのころの僕は、サンバとかボサノバという言葉は知っていたけど、それくらいしか知らないレベルの認識度でした。
ブラジルって実はとても大きな国で、地域によっていろんな音楽があるんです。そういったことを越田くんから教えてもらううちに、「チェロとの相性」という点で、ブラジル音楽は僕にとって非常にマッチングする音楽だということに気がつきました。それから急速にハマっていって、演奏することはもちろん、聴くこともたくさんしました。
あとはIvan Lins(イヴァン・リンス)は、6人組の男性コーラス・グループ「TAKE 6」がカバーした曲《Nosso Acalanto / That’s Love》で有名になったりと、名曲がたくさんあります。
ほかにもToninho Horta(トニーニョ・オルタ)は、アメリカのジャズ・ギタリストのPat Metheny(パット・メセニー)に大きな影響を与えたアーティストで、彼の音楽も大好きです。
キリがないですが……あとひとり挙げるとすればDori Caymmi(ドリ・カイミ)。僕もアルバムでカバーしていますが、彼の作った作品《Amazon River》は、僕の人生においてもっとも重要な曲のひとつです。アマゾンの自然が壊れることや飢饉を危惧している曲なのですが、最初に聴いたとき、とてもとても美しい曲で思わず泣きました。
コンサートの醍醐味は「空気を作る一員」になれること
クラシックの演奏家で印象に残っているのは、僕がまだ小学生のころにNHKホールで聴いた、ウィーン・フィル。コンサートマスターがライナー・キュッヒル、指揮がロリン・マーゼルで、プログラムはリヒャルト・シュトラウスの《英雄の生涯》でした。これはもう一生忘れられない演奏会です。
ウィーンのさまざまなオーケストラからピックアップされたメンバーが約30人集まって、ベートーヴェンの交響曲第7番を指揮者なしで演奏したコンサートを聴きに行ったのですが、あれも本当に感動しました。もう、なんというか、みんなの気持ちや雰囲気、息の合わせ方がロックっぽいんです。クラシックとロックって同じ音楽であって、あまり境界がないなということを教えてくれたコンサートでした。一番後ろの人が身を乗り出して弾いていたりして(笑)、とにかくみんな楽しい。音楽ってすばらしいなと感じました。
あとは学生のころ、上野の東京文化会館で聴いた演奏会。お金が無かったので一番安い席で聴いた、チェロの神様、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチの演奏です。本当にびっくりしました。ものすごく離れた距離なのに、ドカンと目の前で音が鳴っている。どうやったらこんな音を出せるんだろう、なんて考えていたことを覚えています。
「チェロってこんなこともできます!」をつめこんだコンサート
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そしてドラムの齋藤たかしくん。実は藝大出身のドラマーということで非常にめずらしい存在なのですが、なにしろ音が活き活きとしていますね。あと、僕ら年上の人間が多い中では、まだ若手。リハとなどのときに、その場の雰囲気をお祭りにしてくれる天才だと思っています。
ベースのコモブチキイチロウさん。僕にとっては音楽の兄貴。大好きなベーシストはたくさんいるんですけど、その中でもコモちゃんの音が一番好きといえるような音色の持ち主です。そして僕が弱ったときには後ろからつついてくれる、音楽以外でも兄貴みたいな存在です。
ギターの天野清継さん。もうなにも言うことはない、というぐらいお世話になっております。僕よりひと回りくらい年上で、60代後半なのでさまざまなフィジカルが落ちてくる年齢だと思うのですが、20~30年前に出会ったころからプレイの若さが一度も落ちたことがない。そのころから本当に尊敬するミュージシャンです。人間的にも少年のような、いちばん年上なんだけど、いちばん年下のような(笑)、そんなカワイイ一面もあるすばらしいギタリストです。
アンディ・ベヴァンさん、今回久しぶりに共演をお願いしました。フルート、サックス、そしてオーストラリアの先住民の楽器、アボリジニ・ディジュリドゥを担当します。ディジュリドゥという楽器は、ふだんまず聴くことがない楽器と言っていいかと思います。音楽のなかで使われることも一般的には少ないのですが、アンディが演奏するディジュリドゥは、楽器が本来持っているアボリジニが使っていた信号のような音以外にも、テクニックを巧みに操ってリズムを作ることができる、特異な存在です。今回も僕が昔作った《mission-D》という曲を演奏しますが、「ディジュリドゥでこんなことができちゃっていいの!?」という世界を、アンディは広げてくれます。そしてフルートもサックスもストレートな歌心が響く、大好きなすばらしいアーティストです。
国が違ったり言葉が違ったり、食べ物、風土も違えばもちろん、その民族独特の音楽が生まれていきます。音楽の世界は、共通言語が非常に多いと思っています。それを、日本人の僕がどんなふうに料理して食べても自由じゃないかと。いろんなジャンルの方とコラボレーションさせてもらっていますが、この国だから、この人だからこうしようというのではなくて、その人が持っている音楽と自分が持っている音楽が、どんなふうに融合したら楽しいかな、ということを考えてやっています。
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第1部は、そもそも一番大切な部分でもあるのですが、“チェロの音色”がイチオシなので、そこを楽しんでいただきたいですね。第2部は、「チェロはカタい楽器である」と思われがちな部分があるので、「チェロはこんなに楽しいんだよ!」という雰囲気を、ご来場いただくみなさん、スタッフ、メンバーと一緒に作るというのがコンセプトです。
立奏も含めて、ぜひ楽しんでください(笑)。
あと、サンバのときは会場のみなさんが歌ってくれる中で弾きたい、という思いで作っています。コロナ禍を経て、声を出せない時期が長く続きました。「チェロのコンサートでお客さんが歌うの?」と驚かれるかもしれませんが、音楽・ライブというものは、ミュージシャンとスタッフだけが作っているわけではなくて、お客さんと一緒にその場で作るものだと考えています。その“空気”が音楽・ライブだと思うので、聴くだけではなく、会場にいる全員で作り上げる音楽を目指しています。
やっぱりチェロの魅力をたくさん伝えたいなと思いながら、ライブをやっています。クラシックのコンサートとは雰囲気がかなり違うと思うのですが、ジャンルとして縛るというよりも、チェロの良さ、音色、独特の雰囲気など、そういった部分を楽しんでいただきたいです。どうしてもゆったりしたイメージが強い楽器かと思いますが、チェロでも激しい音楽ができるんですよ。「表現は自由でいいんだ」ということを感じながら今も演奏活動をしているので、そんな雰囲気を味わいつつ、楽しんでいただけたらいいな。
そしてこれは僕のライフワークなのですが、盲導犬を広め、増やす活動をしています。今回もPR犬を連れていくので、ぜひ盲導犬に触れて、一緒に遊んでもらえるとうれしいです。
<取材・文・構成 浅井彩>
今後の公演情報
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- 柏木広樹 チェロ・コンサート “Made in musicasa 2024”【大阪】
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- 日時
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- 7月21日(日) 16:30開演(16:00開場)
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- 松下IMPホール
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- 出演
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- [チェロ]柏木広樹
[ピアノ・キーボード]光田健一
[ギター]天野清継
[ベース]コモブチキイチロウ
[ドラム]齋藤たかし
[ディジュリドゥ・サクソフォン・フルート]アンディ・ベヴァン
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- 全席指定:7,200円 学生4,600円
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- キョードーインフォメーション
TEL:0570-200-888
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2001年より本格的にソロ活動を開始、類まれな豊かな倍音を持ち味に、ブラジル・アフリカ・日本など多国籍なテイストを盛り込んだ独創的な音楽を創り出している。
映画『おくりびと』『冷静と情熱のあいだ』『新世紀エヴァンゲリオン』劇中演奏、『雪の華』劇伴、『きらきら眼鏡』テーマ曲など数々の映像作品を手がけている。
南日本放送「やくしまじかん」北日本放送「いっちゃん☆KNB」 TOKYO MX「宝塚歌劇団 CAFÉ BREAK」などのTV・ラジオ番組、セブン銀行、クロサワバイオリンCM、「羽根屋・富美菊酒造」「トヨタ自動車トヨタ会館」「くすりの福太郎」企業テーマソングなどの楽曲提供、『エミリの小さな包丁』(森沢明夫著)、『ドリトル先生』シリーズ(英児童文学)をはじめ文学を題材にした作品も多数。
ピアニスト光田健一とのデュオ・ユニット“二人旅”として全国ツアーを毎年敢行、これまでに2枚のアルバム『Partiendo』『MAJESTIC』を発表。2023年3月、ヴァイオリニスト葉加瀬太郎、ピアニスト西村由紀江とのトリオ“NH&K TRIO”として1stアルバム『Adagio』をリリース。
押尾コータロー、佐藤竹善(SING LIKE TALKING)らの楽曲アレンジ、藤原道山、木村大、沖仁、塩谷哲、ジェイクシマブクロ、クレモンティーヌなど多数のアーティストと共演するほか、元NHKアナウンサー松平定知、女優・中嶋朋子などの朗読とのコラボレーション、能楽師・梅若実玄祥やタップダンサーHIDEBOHとの共演など、ジャンルの垣根を越えて多彩に活躍。
ソロ・アーティストとして通算10作目のオリジナル・アルバム「VOICE」を発表。自身のコンサート・シリーズ“Made in musicasa(音楽の家)”を軸にライブ活動も積極的に展開、公演会場では盲導犬の支援活動を10年近くにわたって続けるなど、音楽を通じて自然・動物・人へのメッセージを発信している。
人間の声に最も近い音色の楽器といわれるチェロを変幻自在に操り、自らを“チェロ芸人”と称して笑顔があふれる音楽を目指すチェリスト。
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