なぜなら、日本は世界に類をみないほど、教育機関での吹奏楽活動が盛んな国。昨年のデータですが、全日本吹奏楽連盟に所属している吹奏楽団は小学校から大人まで13,500団体。毎年何十万人もの吹奏楽部員の皆さんが入部し、そして同じだけ卒業していくわけです。友人知人のさそいでコンサートに行ったことがあるとか、お子様の部活動で触れた、などの関わり方を含めれば、もはや数えきれないほどの方々に吹奏楽は浸透しています。
現在はもう楽器に触っていなかったり、他のジャンルをメインに聴いていたりしたとしても、本公演を隅々までお楽しみいただけるよう、注目していただくとよいポイントをまとめました。
オーケストラと吹奏楽、違いはどこに?
何かと吹奏楽と比べられがちなオーケストラ。でも実は、同じプロ同士の演奏を比べてみると、聴く側からはそこまで大きな違いはないともいえます。弦楽器がいない、などはっきりとした違いはあるものの、指揮者を中心に演奏者がホールのステージに半円を描くように並び、一番外側に打楽器を置く、ということは同じ。コンサートマスターは大多数の場合クラリネット奏者で、オーケストラ同様、客席から見て指揮者の左手側、すぐ横の席に座ります。
さきほど、弦楽器はいないと述べましたが、例外なのがコントラバス。吹奏楽でも用いられ、低音の補強に重要な働きをしています。吹奏楽で低音の役目を担っているのは、バス・クラリネットやバリトン・サクソフォン、バスーン(ファゴット)などの木管楽器に、トロンボーン、ユーフォニアム、テューバなどの金管楽器。それらの間を繋いでくれるのがコントラバスというわけです。
普段オーケストラを中心に聴いている方の中には、吹奏楽の音量の大きさに驚かれる方が多いかもしれません。弦楽器よりも管楽器のほうが相対的に音量が出ますし、管楽器にはステージの前方に向かって音の飛びやすい楽器が多いことも一因です。ただしプロ吹奏楽団の場合、弱音での演奏にこそ、じっくり耳を傾けていただきたいと思います。特にクラリネット族の楽器は、まったくの無音に近いほどの弱音での演奏が可能で、これを効果的に使うと、弦楽器とは異なる倍音をふんだんに含んだ、吹奏楽ならではのピアニシモを表現することができるのです。
多様なレパートリーと、ユニークな演出
オーケストラ作品を編曲したものから、ジャズの作品、ロックやポップスまで、様々なジャンルの音楽が演奏できるのが吹奏楽の楽しいところです。そのため、曲によってはエレキ・ギターやエレキ・ベース、ドラムセットなどが配置されます。ドラムセットは打楽器奏者が、エレキ・ベースはコントラバスの奏者が楽器を持ち替えて演奏することもあれば、プロ吹奏楽団の場合は専門の奏者を招くことも。ロックやポップスよりも吹奏楽のほうが、はるかに多い人数で演奏するため、エレキ・ベースやドラムスのメンバーがイニシアチブをとって演奏を導くことが重要になってきます。
また、演奏する場所に趣向をこらすシーンも見られるでしょう。とても目立つフレーズを一人で演奏するソロパートと呼ばれる部分では、奏者がその場で立ち上がったり、あるいは自分の席からステージの前方へ移動することがあります。これは単に目立ちたいから(!)ではなく、ソロパートがバンド全体の音量に負けないように、より聴こえやすくなるようにと戦略的に行われるものでもあるのです(それでもバランスが取りづらい際には、マイクロフォン等で音量を増幅することもあります)。
ブレスの妙技にも注目!
当たり前のことですが、管楽器を演奏するには息を吸うことがなによりも重要です。平常時よりも多く息を吸ったり吐いたりするがゆえに、感染症対策をきちんととらねばならないのは言わずもがなですが、弦楽器のボウイングにも例えられる管楽器奏者のブレスからは色々なことが読み取れます。長くフレーズを繋げたい局面では、音符の間のわずかな隙をついて短くブレスをとりますし、休符はないけれど長く吹奏を続けることを要求された場合は、同じ楽器の奏者と交代で、こっそり息継ぎブレスをしている場合も。要求される音楽に応じて、それぞれの楽器があの手この手で繰り広げるブレス、一度注目してみては。
たくさんの種類の楽器がさまざまな組み合わせで演奏されることで、吹奏楽は実に多彩な音のパレットを持っています。作品によって、作曲者によっても個性の異なる吹奏楽の響きを、ぜひじっくり聴き比べてみてくださいね。
(文・内田夏殻)
〜リクエスト曲を、ド迫力の合同演奏で楽しむ、特別な1日〜