カルテット特集では、8月31日に開催される「ららら♪クラシックコンサートVol.11 ソリストたちのカルテット~千住! 石田! 飛澤! 長谷川! 大御所ズ☆室内楽~」にむけて、弦楽四重奏曲の歴史を紐解きながら魅力を伝えてきましたが、今回は特別編ということでインタビューをお届けします。
桐朋学園在学中、偶然授業で一緒になったことがきっかけで誕生したカルテット・アマービレ。今では「運命を感じる」と語る4人の俊英たちは結成してわずか1年足らずで難関として知られるミュンヘン国際コンクールで3位入賞を果たしました。現在は全国で多くの演奏活動を行い、都内ではコンサートシリーズが開催されるほど勢いのあるアマービレの4人に、弦楽四重奏の魅力について語ってもらうインタビューの後編です(前編はこちらから)。今回は、これまでの活動や日々の練習の様子を伺いながら、さらなる魅力を探っていきたいと思います。
6. コンクールという舞台
――弦楽四重奏の世界でも、登竜門的なコンクールがいくつかありますね。アマービレの皆さんはたくさんコンクールを受けてこられました。先ほども、ミュンヘン国際コンクールで特別賞を受賞されたことを機に、現代曲にも取り組むようになった、などありましたが、やはりコンクールは皆さんにとって大きいものなのでしょうか?
篠原:耳の肥えた方に聴いていただけるのは、すごく大きいですね。ミュンヘン国際では、メンデルスゾーンの《弦楽四重奏曲 第2番》を演奏したのですが、音楽がお客様にダイレクトに伝わっていることを実感できた瞬間でした。普段からカルテットを聴くことに慣れている聴衆の方々に対して、弾きながらそういう感覚を持つことができた、貴重な機会でした。
笹沼:あと、キャリアの面でも大きかったと思います。もともと僕たちは、みんな桐朋学園で学んでいて、授業でたまたまカルテットを組んだのがスタートでした。本当なら次の年にはまた別の人たちと組むはずだったんです。それが、ミュンヘン国際で結果が出たことと、同コンクールに出場するために準備したレパートリーが幸い9曲もある、ということで活動を続けることになりました。
篠原:9曲の課題曲もモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、現代曲・・・など、どの時代も網羅する課題だったので、そこでの経験がもとになって、その後レパートリーを広げていくのに役立ちました。
――やはり、コンクールというのは演奏家にとっては道を左右する大きなものなのですね。
7. 阿吽の呼吸
――アマービレの皆さんの演奏を拝聴すると、研ぎ澄まされたアンサンブル能力、とでもいうのでしょうか。阿吽の呼吸という言葉がぴったりなほど、息の合った演奏が印象的です。これはどんな風に磨かれてきたのですか?
サントリーホールでの公演の様子
中:コンクールでは、「縦の線が合う」というのはかなり重要視されるポイントではあるため、神経を使ってはいましたが、そこはこの4人だと心配があまりなかったですね。
笹沼:審査員によっては、どれだけアイコンタクトをとるかによって評価が分かれる場合もあるのです。ただ、一方で30年、40年続けているベテランの方々の演奏、例えばアルバンベルク弦楽四重奏団の演奏を動画で見たりすると、どこか達観した様子なんです。だから一概にパフォーマンス的な意味で目で合わせることだけが呼吸を合わせる方法では無いのだと思います。もちろん目で見て合わせることもありますが、より高度な次元で息を合わせることも可能なのだと思います。
中:実際私たちも、「次はどんなふうにくるか」というのが年々よく分かるようになってきました。
笹沼:僕らって指導を受ける先生によっては「合いすぎてて気持ち悪い」と言われることもあったくらいで(笑)。実はあまり “音を合わせること” が障害にはならない珍しいグループでした。ただ、合いすぎてしまっているがゆえに表現につながらない、ということがありました。だから、出来上がっているものを崩す、ではないですけど、「本当にそれでいいのか?」と、あえて普通にやっていることを見直しながら自然なフレージングにすることに注力しました。
――自然なフレージングができるようになってくると、どのようなことが起こってくるのでしょうか?
笹沼:自分たちのフレージングができるようになってくると、今まで「合っている」と思っていたところが、実は細部では合っていなかったり、ということもあって、そういうのに気付けるようになりました。より演奏に対する要求が高くなっていきますね。
――確かに、ひとくちに「合っている」と言ってもそれが機械的なものだったら、そこから何も感じないと思います。自然なフレージングを磨くことでより音楽が洗練されていくのですね。
8. 意見をぶつけ合うことで生まれる音楽
――先ほどの呼吸のお話を聞くと、「合っていること」が全てではない、というか、その上で、どんな表現をするかもとても大切なのだということに気づきました。
北田:笹沼くんが言ってくれたように、私たちは結成当時から、合わせるというより、いかに自分たちの表現をするか、ということが課題でした。日本人の特徴なのかも知れないのですが、意見をぶつけ合うのが、あまり得意ではなかったのです。言った後、空気が悪くなる感じに耐えられない、みたいな。でも、それをしていかないと、いいものは生まれていかないんだということをやっていくうちに理解していったのです。
中:今年で結成6年目になるのですが、確かに最初は遠慮がちなところもあったものの、だんだんと臆せず言えるようになってきましたね。ここまで言ってもいいんだな(=悪いことではないんだな)というのが、分かるようになってきました。だから、より自由な表現ができるようになってきました。
――これは「阿吽の呼吸」にもつながりますが、皆さんの場合は不自然に合わせにいったり、遠慮しながら合わせているのでは決してなく、個々の主張をはっきりすることで、表現が磨かれていき、結果として「合っている」ように聴こえているのだということが、よく分かりました。4人だからこそ、ソロよりも変化の振れ幅が大きく、かといってオーケストラよりも大きくなりすぎず、緊密なコミュニケーションができそうですね。
9. 緻密に構築される音楽
――ソロやオーケストラなど、他のジャンルを演奏するときとの違いってあったりするのでしょうか?
中:音楽記号のニュアンスなど、作品が作曲された時代によって異なる要素というのがいくつかあります。例えばアクセント(音を強調する記号)の解釈ひとつをとっても、4人ともそれぞれ意見を持っていたりするので、解釈の違いをすり合わせていく作業が、カルテットの場合はソロで演奏する時と比べてより繊細に、念入りにやります。そこが大変でもあり、やりがいに繋がっています。
笹沼:ソロの楽器の方がひとりで音楽を作り上げていく孤独感や大変さもなかなか想像しづらいのですが、カルテットの場合は、4人いるからこその大変さもありますね。
北田:合わせのときは1ミリ単位で音を調整していて、それによって音楽全体が変わったり、ということがよくあります。
――それは相当繊細な作業ですね。
笹沼:そうなんです。それだけ細いことをやっているので、割と聴いていただくのにも集中力が必要になってくるのかも知れないです。
10. コンサートならではの魅力
――最後に、皆さんが考える、コンサートの魅力を教えてください!
霧島国際音楽祭での公演の様子
笹沼:コンサートって、客席と舞台との共同作業のような場所だと思うのです。先ほど、「カルテットを聴くには集中力が必要」と言いましたが、演奏しながらお客様からのその集中が伝わってくることがあります。そして今度はそれが僕らの演奏のエネルギーになっていくのです。逆に上手くいかない時って、客席と舞台との間に壁を感じたりすることも。これはなかなかオンラインコンサートでは得られない体験なのではないかと思います。
――お客様と皆さんとの相乗効果のようなものですね。そしてこれはリアルタイムで音楽(演奏)に反映されますから、聴いていて興奮するでしょうね。
中:そうですね。やはりそうしたことも含めてお客様と同じ場所にいること、空間を共有できるというのは、コンサートの醍醐味だと思います。
篠原:私たちも、お客様と一緒に呼吸する感覚を持って演奏しています。ホールの響きと相まって、お客様のエネルギーを感じながら演奏できるのが、私たちにとっても幸せなことです。
北田:私は、音って肌で感じられると思っていて、コンサートホールだと、音の風のようなものが感じられると思います。これをぜひ、会場で体験していただきたいです!
中:そして私たち自身が、いつも弦楽四重奏の良さが少しでも伝わるようにと思いながら演奏しています。それは何より聴いてくれるお客様がいてくださっているので、これからもその時できる最大限のいいパフォーマンスをしていきたいと思っています!
――これまで伺ってきた音楽作りのどの工程も、言葉でいうのは簡単ですが、皆さんはいつも真摯に取り組まれているのがよく分かりました。ぜひ、皆さんと一緒に音楽を作ることができるコンサートという場に、たくさんの方に足を運んでもらいたいですね。本当にありがとございました!
<取材・文 北山奏子>
カルテット・アマービレ
2016年9月難関で知られる第65回ARDミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門第3位に入賞、あわせて特別賞(コンクール委嘱作品の最優秀解釈賞)を受賞。19年11月、ニューヨークで行われたヤングコンサートアーティスト国際オーディションで第1位を獲得。ニューヨーク、ワシントンなどでの米国デビューツアーが予定されている。
15年桐朋学園大学在籍中の篠原悠那、北田千尋、中恵菜、笹沼樹により結成される。山崎伸子、磯村和英氏に師事。第10回横浜国際音楽コンクール第1位及び全部門グランプリ、第12回ルーマニア国際音楽コンクール第1位、第4回宗次ホール弦楽四重奏コンクール第1位、聴衆賞受賞。第12回ミュージックアカデミーinみやざき講師特別賞、第26回リゾナーレ室内楽セミナー奨励賞、第37回霧島国際音楽祭賞、 堤剛音楽監督賞を受賞。松尾学術振興財団より第26〜28回、第30回松尾音楽助成・奨励を受ける。プロジェクトQ第13章に出演し、カルミナ四重奏団、今井信子らのマスタークラスを受講。