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<5月11日 北海道・札幌コンサートホールKitara> 2002年、フィンランド第2の都市タンペレで行われた演奏会で、ある日本人ピアニストが脳溢血で倒れた。
彼の名は、舘野泉。1964年からヘルシンキに居住し、1968年にはメシアン・コンクールで第2位に輝き、同年から国立シベリウス音楽院の教授を務め、ジャン・シベリウスから、エイノユハニ・ラウタヴァーラ、ペール・ヘンリク・ノルドグレンまで、フィンランドの近現代音楽をレパートリーの中心にとらえて、日本とフィンランドを音楽でつないできたピアニストだ。脳溢血で右半身不随となるも、2003年8月にアレクサンドル・スクリャービンやディヌ・リパッティ(我が国ではピアニストとして名高いが、実は優れた作曲家でもある)の「左手のためのピアノ曲」を新たなレパートリーとして演奏活動に復帰した。以後「左手のピアニスト」として、左手のみで演奏可能な作品を作曲家に次々と委嘱し、「左手のためのピアノ曲」というジャンルを確立するにいたっている。舘野泉に献呈された作品は、すでに130曲を超えているという。
2025年、数え年で90歳を迎える舘野がリサイタルのプログラムに選んだのは、これまで幾度となく取り上げてきたノルドグレンの代表作《小泉八雲の『怪談』によるバラードⅡ~振袖火事、衝立の女、忠五郎の話》と、パブロ・エスカンデの《ナイチンゲールと薔薇の花》、《魔女と夜宴(ゴヤを描く)》の3作。
ペール・ヘンリク・ノルドグレンとパブロ・エスカンデ。このふたりの作曲家には、舘野泉のために曲を書いた……ということのほかに、もうひとつ共通点がある。それは、ふたりとも日本に居住経験がある、ということである。ノルドグレンは1970年から1973年にかけて、東京藝術大学で長谷川良夫の下で作曲を学び、日本の伝統音楽から大きな影響を受けた。エスカンデは、2012年から日本を拠点に活動しているアルゼンチン出身の作曲家で、現在は大阪音楽大学で後進の指導にあたっている。直近10年ほどは舘野に毎年楽曲を提供しており、本公演で演奏される2作は2024年委嘱作品で、札幌では初演となる。
シリアスな響きを持ちつつも、日本伝統音楽の薫りをもつノルドグレン、そして朗読とピアノが互いに呼び交わすエスカンデ、ふたりの作曲家による作品を、舘野がどう解釈し聴かせてくれるか楽しみだ。現代音楽になじみのない方でも、きっと心に響くものがある。ぜひ、この機会を逃さずに舘野泉の音世界を感じてほしい。
<文・加藤新平>
公演名 | 舘野泉ピアノ・リサイタル 卒寿記念コンサート2025 |
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日時 | 5月11日(日) 13:30開演(13:00開場) |
会場 | 札幌コンサートホールKitara 小ホール |
出演 |
[ピアノ]舘野泉 [朗読]元田牧子 |
プログラム |
ノルドグレン:小泉八雲の『怪談』によるバラードⅡ~振袖火事、衝立の女、忠五郎の話 エスカンデ:ナイチンゲールと薔薇の花(オスカー・ワイルド)、魔女と夜宴(ゴヤを描く) |
チケット | 全席自由:5,000円 |
お問い合わせ | オフィス・ワン TEL:011-612-8696 |