第4弾「華麗なるオペラ特集」が2月14日に、上野の東京文化会館大ホールで開催されました。実力と人気を兼ねそなえたソリスト5名がバレンタインディに合わせて選んだオペラの名曲を、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏でお届けする豪華なコンサートとなりました。
ららら♪クラシックコンサートVol.4
2019年2月14日(木)18:30開演 東京文化会館大ホール
オープニングはイタリアの作曲家ドニゼッティのオペラ『愛の妙薬』から、主人公の農夫が愛する人へ想いを歌う「人知れぬ涙」。美しく切ない珠玉のアリアを披露したのは宮里直樹(テノール)さん。宮里さんはウィーン国立音楽大学オペラ科に留学し、第48回日伊声楽コンコルソ第1位など多数受賞され、これまで『愛の妙薬』、『ラ・ボエーム』などに主役で出演されています。
2曲目は、モーツアルトの代表的オペラ『ドン・ジョヴァン二』から「むごい女ですって」。プレイボーイ貴族のドン・ジョヴァンニに対し復讐を誓う一方で彼に惹かれていく・・・複雑に揺れ動く女心を表現するのは森麻季(ソプラノ)さん。ドレスデン国立歌劇場やトリノ王立歌劇場などにも出演し国際的な評価も高く、特に「コロラトゥーラの類稀なる技術を持ち、透明感のある美声」と評されています。
「コロラトゥーラとは感情の高揚を表現する時などに使われる技術(細かい音をコロコロと動かす)です。たくさんの音が実際の音符には描かれています。高橋さんもやってみませんか」と森さんに促され、司会の高橋克典さんもコロラトゥーラに挑戦、会場からの失笑と拍手に「いやー難しいものですね」と笑顔の感想でした。
続いては、オペラ史上最高の名作のひとつといわれるヴェルディの『オテロ』から二重唱「すでに夜もふけた」。原作はイギリスの劇作家・シェイクスピアの『オセロ』(イタリア語読みで「オテロ」)。主人公オテロとその妻が美しいメロディに乗せて愛を語り合う場面を砂川涼子さんと笛田博昭さんが演じました。
4曲目は同じくヴェルディの歌劇『イル・トロヴァト-レ』から「君のほほえみ」。15世紀初頭のスペインを舞台とした物語の中で、主人公ルーナ伯爵の燃え上がる恋心をヴィタリ・ユシュマノフ(バリトン)さんが情熱的に歌いあげました。
ロシアのサンクトペテルブルグに生まれ、マリンスキー劇場で学んだ後、2015年から日本に拠点を移して活躍されています。「僕はまったく日本について知識がなかったにも関わらず、来日公演で初めて成田空港に降り立った瞬間に‘もどってきた‘という不思議な感覚を味わいました。運命的なものを感じて今は日本で暮らしています。占いで前世をみてもらったら卑弥呼の時代に今の静岡県あたりに住んでいたと言われました。何故日本に住むのですかと聞かれるのですが、日本が好き・・・愛していると言う感じです」と流暢な日本語に大きな拍手が沸きました。
5曲目は東京フィルハーモニー交響楽団によるマスカーニの代表作『カヴァレリア・ルスティカーナ』から間奏曲。劇中演奏される曲のなかでも特に有名で、オーケストラのコンサートでも単独で演奏される事が多い曲。前半のゆったりと流れるような安らかで甘い旋律が、後半になると第1、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの4パートが一斉に同じ旋律を奏でるユニゾンになりシンプルながらも重厚な響きの名曲。
続いてはヴェルディの『リゴレット』から二重唱「貴族や王子様でない方がいいわ・・・それは心の太陽」。素性を知らずに公爵に恋をしてしまったジルダを森麻季さんが、貧しい学生に扮して甘い言葉でジルダを口説く公爵役を宮里直樹さんが熱演してくれました。
前半最後は、イタリアの作曲家レオンカヴァッロの『道化師』の最高の見せ場で歌われる「衣装をつけろ」。どんなに絶望に打ちひしがれて辛い時でも、道化師はお客を笑わせる為に演じなければならないという宿命を笛田博昭さんが演じました。歌い終えた後の切ない表情で肩を落として立ち尽くす姿が印象的でした。
ここで司会の高橋克典さんと金子奈緒さんがオペラについてのいくつかの疑問を本日の指揮者松下京介さんに質問。「オペラと言うと高尚で、堅苦しく近寄り難いイメージがあるのですが・・・」。「オペラは、歌と楽器、演劇と美術、衣装などが一体となった総合芸術ですが、内容は惚れたはれたが演じられる昼ドラの世界のようなもので、テレビや映画の無い時代に波乱万丈の人間ドラマを人々が楽しんだものです。気楽に昼ドラを楽しむ感覚でオペラに親しんで欲しいです」。
「また、海外ではオペラというとドレスコードがあると聞きますが・・・」の質問には、「確かに、ちょっとおしゃれをして劇場に来られる観客達で華やかな雰囲気に包まれますが、留学中の頃僕ら学生は天井桟敷の安い席を買って、普段着で劇場に通っていましたよ。でも、いつもとはちょっと違う非日常を味わう為に少しおめかしして劇場にいくのは楽しい事だと思います」。そして「言葉が分からない」点については「事前にほんの少し予習をして、あらすじをざっくり知っておくと十分楽しめると思います」とアドバイスしてくれました。
第2部は、ヴェルディの『オテロ』から「アヴェ・マリア」でスタート。悲劇の運命を予感したかのように、オテロの妻・デズデーモナが寝る前に祈りを捧げるシーンです。砂川涼子さんが憂いを含んだ表情で熱演。砂川さんは第34回日伊声楽コンコルソ第1位など、数々の賞を受賞されて、いまや日本を代表するソプラノ歌手として活躍中です。「私はオペラが大好きです。優しさや哀しみ、さまざまな感情を歌声で表現し、物語りの中でそれがダイレクトに伝わる事に魅力を感じます」。
続いてプッチーニの『トゥーランドット』から「誰も寝てはならぬ」。トリノオリンピックで金メダルを獲得した荒川静香選手が使用してお馴染みのメロディ。王子カラフが勝利を確信した希望を胸に歌われるアリア。笛田博昭さんの力強い歌声に、割れんばかりの拍手が沸き起こりました。笛田さんはイタリアでオペラデビュー、第50回日伊声楽コンコルソ第1位受賞者です。「凄いプレッシャーでした。この曲は最後が決まらないと気が抜けてしまう難しさがあり、心配でした。終わってほっとしました」と笑顔。司会の高橋さんからの本番までの準備過程について聞かれて解説した最後に「それから余談ですが・・・只野仁(高橋克典さんが演じているドラマの主人公)が好きです」と茶目っ気たっぷりに披露。
続く2曲はプッチーニの人気オペラ『トスカ』から。まずは主人公のトスカが絶望と哀しみの中で熱唱する「歌に生き、愛に生き」。プッチーニ自身が楽譜に「とても優しく深い感情をこめて」と指定した作品をみごとに砂川涼子さんが表現。そして最終幕の「星はきらめき」を宮里直樹さんが歌いました。堂々とした舞台上とは裏腹に「今日は第1部のオープニングから緊張しっぱなしです。歌い終わって舞台袖に入ると足がガクガクと震えて・・・」と告白。「両親がヴァイオリニストで私も18歳までヴァイオリンを勉強していたのですが、宝塚歌劇団の妹の伴奏について行って、そこで歌の先生に出会い、熱心に勧められたのがきっかけでこの道に進みました」と意外なプロフィールを話してくれました。
そして森麻季さん演じる『リゴレット』のジルダが再登場して恋に落ちた胸のときめきのシーン「慕わしい名前」を。バレンタインデイに同じ心待ちの方もいたのでは・・・。。
プログラム最後に用意された曲は、プッチーニの中でも特に人気が高い『ラ・ボエーム』から四重唱。愛し合いながらも別れを決意したミミとロドルフ、その一方で激しく罵り合いながら喧嘩別れするマルチェッロとムゼッタの2組のカップルの対照的な別れのシーンを森麻季さん、砂川涼子さん、宮里直樹さん、ヴィタリ・ユシュマノフさんが熱演してくれました。恋は甘いばかりではなく、ビターなほろ苦い経験も・・・チョコレートも同じですね。
拍手に鳴り止まない会場に出演者全員が再登場。アンコールに応えて、ヴェルディ作曲の『椿姫』から「乾杯の歌」。コミカルな即興の演技に笑いやブラボーとの声が飛び交う、華やかで高揚感あふれる締めくくりでした。ハッピーバレンタイン!人生に乾杯です。
次回の「ららら♪クラシックコンサート」第5弾は、「オーケストラ特集~炎のマエストロ小林研一郎と千住真理子の競演」と題して、6月13日木曜日18時30分から、上野の東京文化会館大ホールで開催します。