1998年のメジャーデビュー以降、日本、いや世界を代表する活躍を続けているのがバンドネオン奏者・小松亮太さんだ。ニューヨーク・カーネギーホールやアルゼンチン・ブエノスアイレスなどで公演を行うだけにとどまらず、タンゴの本場・アルゼンチンでもその実力は評価され、アルゼンチン音楽家組合(AADI)、ブエノスアイレス市音楽文化管理局からも表彰されています。 小松さんがららら♪クラブのインタビューに登場するのは2度目。今回はご自身のデビュー25周年企画の最後のイベントである公演について、お話をうかがいました。
―― 前回のインタビューは2019年でした。この5年で、バンドネオンとアコーディオンの違いを理解してくださった方も増えたのではないでしょうか?
そうですね。おかげさまで前よりは間違えられなくなったかなとは思います。バンドネオンは正方形、アコーディオンは長方形というのが一番かんたんな見分け方ですので、ぜひ覚えておいていただけたらと思います。
さらに言いますと、バンドネオンはなんとサイズが白銀比なんです! A4コピー用紙も白銀比ですね。飛行機やスーツケース、新幹線の荷物入れにもぴったり入ります。
バンドネオンとアコーディオンが一同に介するコンサート。それぞれの楽器は見た目だけでも違いがはっきりしている
―― デビュー25周年企画の最後のイベントとして、2024年12月に「小松亮太&オルケスタ・ティピカ with 彩吹真央」公演が東京・大阪で予定されています。公演のタイトルにもある「オルケスタ・ティピカ」とはどのようなものなのでしょうか?
「オルケスタ・ティピカ」とは、英語でいうと”Typical orchestra”、つまり、“標準的楽団”という意味です。バンドネオンが3~4人、ヴァイオリンが3人以上(ヴィオラやチェロを含むこともあり)、そしてピアノ、コントラバスという、アルゼンチン・タンゴの黄金期を象徴する楽器編成です。こんなぜいたくな楽器編成を「標準型オーケストラ」と呼ぶ時代があったんですよね。
1940年から1955年ごろまで、第二次世界大戦によって農業が滞ってしまった国々に、農業国であるアルゼンチンは食料を大量に輸出して莫大な利益を得ていました。この一種のバブル景気が音楽界に波及したことで、タンゴというジャンルは、いくらでも人とお金を使える黄金時代に突入したのです。
アストル・ピアソラも含め、ほぼすべてのアーティストがオルケスタ・ティピカ編成で活動していたのがこの時代です。そのころには軽く100団体はオルケスタ・ティピカの楽団が存在していて、それぞれの団体が個性を競い合っていました。近年では、日本ではもちろんのこと、本場アルゼンチンでも目にすることが少なくなってしまっています。
―― ゲストの彩吹真央さんとはどのようなきっかけで共演をするようになったのですか?
彩吹さんとは2011年と2013年に、「ロコへのバラード」というタンゴのミュージカルで共演させていただいて以来、何度か一緒にコンサートもやらせていただいています。すでに打ち合わせもしていますし、気合いが入っています。
彩吹真央さんと
―― 今回はさらに、ヴァイオリニストのパク・ヨンウンさんが韓国から来日される予定とうかがいました。パクさんとのの出会いのきっかけ、魅力などを教えください。
ソウルでコンサートをやったとき、何度か手伝ってもらいましたが、パクさんは「生まれつきタンゴに向いている人」の音がするヴァイオリニストです。世界的にそういった人はすごく少ないんです……。
―― そんな特別な「オルケスタ・ティピカ」ですが、この編成で演奏するのを楽しみにしていた曲目を教えてください。
《インスピラシオン(霊感)》です。20世紀初頭の曲ですが、さまざまなバージョンのアレンジがあるなかで、今回は1954年に初めて来日したフアン・カナロ楽団が演奏していた、アストル・ピアソラによるアレンジで演奏します。
「ピアソラはタンゴとしては革命的すぎる曲を作りすぎて、従来のタンゴ・ファンから総スカンを喰らった」というエピソードが定着していますが、これは誤解です。ピアソラは作曲ではなく、「革命的なアレンジ」によって批判されたんです。同じ曲(メロディ)が、アレンジによって、これでもかというぐらいに姿を変えるところがタンゴの醍醐味です。
パクさんとの共演。2019年韓国にて
―― 小松さんが実際にお聴きなったことのあるオルケスタ・ティピカの演奏で、とても印象に残っているコンサートの思い出を教えてください。
1990年にブエノスアイレスで聴いた、コロール・タンゴ(Color Tango)というグループのライブです。夢のような時間でしたね。編成は経費のこともあって、オルケスタ・ティピカを縮小した7人でしたが。タンゴの全盛期は、たぶんこういうレベルの演奏がそこらじゅうで巻き起こっていたんだろうなと思います。
―― 今回の公演の見どころ、聴きどころを教えてください。
「オルケスタ・ティピカ」は本当に魅力的なものです。こんなにおもしろいものが、「費用がかかるので」「やる人が少なくなってしまっているので」できなくなってしまう、敬遠されていう、ということだけは避けたいし、僕は諦めたくないのです。オルケスタ・ティピカが存在しない、というのは、タンゴがなくなってしまうということになってしまいますから。
僕の楽団の演奏を聴きに来ていただいて、「タンゴってどうやらおもしろい音楽なんだな」、ということをとにかく感じてほしいと思っています。
<文・編集部>
今後の公演情報
- ■ 公演名
小松亮太&オルケスタ・ティピカ with 彩吹真央
■ 日時・会場
●12月13日(金) 19:00開演(18:15開場)
J:COMホール八王子
●12月20日(金) 18:30開演(17:45開場)
豊中市立文化芸術センター 大ホール
■ 出演
【小松亮太&オルケスタ・ティピカ】
[バンドネオン]小松亮太、北村聡、早川純、鈴木崇朗
[ヴァイオリン]近藤久美子、専光秀紀、パク・ヨンウン
[ヴィオラ]御法川雄矢
[チェロ]松本卓以
[コントラバス]田中伸司
[ピアノ]熊田洋
[ゲスト・歌]彩吹真央
■ プログラム
馬飼野康二(小松亮太編曲):薔薇は美しく散る
マトス・ロドリゲス:ラ・クンパルシータ
ラバジェン:ブエノスアイレアンド
小松亮太:風の詩~THE世界遺産
ピアソラ:アディオス・ノニーノ
ほか
■ チケット
【東京公演】
全席指定:S席5,500円 A席4,500円
【大阪公演】
全席指定:5,500円 U25 2,500円
■ 詳細
東京公演の詳細はこちら
大阪公演の詳細はこちら
■ お問い合わせ
【東京公演】
公益財団法人八王子市学園都市文化ふれあい財団
TEL:042-621-3005(9:00~17:00)
【大阪公演】
豊中市立文化芸術センターチケットオフィス
TEL:06-6864-5000(月休・10:00~19:00)
小松亮太(Ryota Komatsu)
1973年 東京 足立区出身。さそり座 AB型。洗足学園音楽大学客員教授。
高校時代より才能を発揮し、伝説的歌手である藤沢嵐子の1991年のラスト・ステージではバンドネオン・ソロで伴奏を担当。1998年のCDデビューを果たして以来、カーネギーホールやアルゼンチン・ブエノスアイレスなどで、タンゴ界における記念碑的な公演を実現している。
アルバムはソニーミュージックより20枚以上を制作。「ライブ・イン・TOKYO~2002」がアルゼンチンで高く評価され、2003年にはアルゼンチン音楽家組合(AADI)、ブエノスアイレス市音楽文化管理局から表彰された。2015年にリリースした大貫妙子との共同名義アルバム『Tint』は、第57回輝く!日本レコード大賞「優秀アルバム賞」を受賞。2008年にはアストル・ピアソラの幻のオラトリオ「若き民衆」を東京オペラシティで日本初演。2013年にはピアソラの「ブエノスアイレスのマリア」をピアソラ元夫人の歌手アメリータ・バルタールと共演し、ライブアルバムをリリース。
タンゴ界にとどまらず、ソニーのコンピレーション・アルバム「image」、同ライブツアー「live image」には初回から参加。作曲活動も旺盛で、フジテレビ系アニメ『モノノ怪』OP曲「下弦の月」、TBS系列『THE世界遺産』OP曲「風の詩」、映画「グスコーブドリの伝記」(ワーナーブラザース配給・手塚プロダクション制作)、「体脂肪計タニタの社員食堂」(角川映画)、NHKドラマ「ご縁ハンター」のサウンドトラックなど多数を手掛けている。
これまでのタンゴ界以外での共演者は、ミッシェル・ルグラン、バホフォンド、イジョク(Juck Lee)、ジェイク・シマブクロ、ブロドスキ―・カルテット、ミルバ、上妻宏光、石井一孝、NHK交響楽団、小曽根真、織田哲郎、佐渡裕、葉加瀬太郎、宮沢和史など。タンゴ界ではビクトル・ラバジェン、ラウル・ラビエ、マリア・グラーニャ、オスバルド・ベリンジェリ、フアン・カルロス・コーペス、コロール・タンゴ、藤沢嵐子など。
2016年「小松亮太meetsワールドバンドネオンプレイヤーズ」開催、2017年にイ・ムジチ合奏団と共演するなど、海外アーティストとの公演も重ねている。
2021年には430ページに及ぶ書籍「タンゴの真実」(旬報社)を上梓。NHK Eテレ「クラシック音楽館“ピアソラの世界”」では演奏とトークを務めた。
2023年の1月から約4か月に渡り、浜松市楽器博物館にて「小松亮太監修 蛇腹楽器展 おくり魅かれる風・音~バンドネオンの謎と真実~」を開催、多数のイベントや講座にも出演した。
2021年よりラジオ番組「小松亮太の音楽世界旅行」の司会進行も務めている。
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