アルメニアの吟遊詩人

 11月13日の放送は、「ハチャトゥリヤンの魅力」でした。ハチャトゥリヤンは20世紀に旧ソ連で活躍した作曲家です。今回は番組の中で紹介されたハチャトゥリヤンの『ヴァイオリン協奏曲第1楽章』と『仮面舞踏会』から「吟遊詩人」をキーワードとして選んでみました。

「吟遊詩人アシュグ」

サズ

ハチャトゥリヤンのルーツ、アルメニアを含む多民族の交差点・コーカサス地方にはアシュグと呼ばれる吟遊詩人がいました。諸国を旅し、ネックの長い弦楽器サズやタールカマンチャイを弾きながら詩を即興的に歌いあげる彼らの姿は、ハチャトゥリヤンの原風景だと言われています。生命力溢れる民族のリズムはもちろん、幼年時代に受けたアシュグの強い印象から、作風に民族調を色濃く残したハチャトゥリヤンは、ピアノとヴァイオリンのための「ソング=ポエム」や「ピアノ協奏曲」、そして「ヴァイオリン協奏曲」を残しました。アシュグの原風景は『仮面舞踏会』の中にも現れます。管弦楽組曲の第4曲「ロマンス」は劇中で毒殺される妻ニーナの歌ですが、不安定なメロディーで失われた愛を歌いあげる様子はアシュグさながらと言えます。

「弾唱詩人の子孫レールモントフ」

戯曲『仮面舞踏会』の作者ミハイル・レールモントフは、スコットランドにルーツを持つ弾唱詩人(竪琴を片手に儀式時に唱う詩僧)を祖先とする詩人です。療養で度々コーカサスを訪れた少年時代を経て、後にコーカサス地方の民話をもとに吟遊詩人と富豪の娘の恋物語『アシク=ケリブ』他、多くの叙事詩を書いています。音楽の才もあったので、コサックの老婆の歌を採譜し『コサックの子守唄』として世に送り出しました。度重なる流刑の先も、2度目の決闘で26歳の生涯を閉じたのもコーカサスと、彼の地に縁の深いレールモントフにハチャトゥリヤンも縁を結ばれたのでしょう。後年、レールモントフの逸話をボリス・ラヴレニョフが劇化し、劇伴音楽を担当したハチャトゥリヤンはそれを管弦楽「レールモントフ組曲」として編み直しています。

参考文献:
「Grove Music Online:Khachaturian, Aram (Il′ich)
「レールモントフ選集 I, II」池田健太郎 草鹿外吉 共編、光和堂 1974-1976年

(文・武谷あい子)

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