ららら♪の「Vol.12 リポート」

2021年12月1日(水)サントリーホールで、《ららら♪クラシックコンサートVol. 12「祝祭音楽の展覧会 読響 × パイプオルガン」 ー王道曲による至高の饗宴ー》が開催されました。新型コロナウィルス感染拡大防止に伴う入場規制が解除されているとはいえ、相変わらずの慎重な対応感染防止対策の中で、しかしながら師走の初日にふさわしい豪華で盛大なコンサートとなりました。

 会場となったサントリーホールのシンボルといえば、舞台中央奥で燦然と輝くパイプオルガン。そのパイプオルガンが今回の主役! 生演奏で耳にすることの少ないその音色の響きへの期待に、開演前から胸が高まります。

 日常のざわめきが漂う客席にいた聴衆を、目の覚めるようなファンファーレにのせて “遠い昔、はるかかなたの銀河系” の宇宙へと一気に連れていってくれたのはJ・ウィリアムズ作曲の映画「スターウォーズ」より《メイン・タイトル》。次々と表れるメインキャラクターたちのテーマで紡ぎスターウォーズの世界観を打ち出したこの曲は、タクトさばき鮮やかな川瀬賢太郎さんの指揮と熱量あふれる読売日本交響楽団とのフィーリングも抜群。

 演奏後に登場したMCの高橋克典さんと金子奈緒さんのおふたりにも「華やかなオープニングでしたね」と思わず笑みがこぼれます。満を持して次の演目から登場するパイプオルガンについて「番組に出演をしていたころから何度か目にしながら、聴く機会がなく “いつになったらパイプオルガンを使うのだろう” と思っていました」と茶目っ気たっぷりに話す高橋克典さんの言葉に、客席のあちこちでもうなずく姿が見えます。「演奏会場に併設されていることが稀少なパイプオルガン。それゆえに、本来はオーケストラとパイプオルガンと併せて書かれた曲でも、オーケストラのみの編成の総譜で演奏されることの方が圧倒的に多くなっています。」と言葉をつなぐ指揮者の川瀬さん。「予算の関係もあるんですが」とニヤリと冗談も。そのオルガンを演奏するのは、新進気鋭のオルガニスト冨田一樹さん。第20回ライプツィヒ・バッハ国際コンクールのオルガン部門において日本人で初優勝を果たし、国内外で評価の高い名手です。

 2曲目は、ヘンデル作曲 オラトリオ《メサイア》HWV56第2部最終曲〈ハレルヤ〉オルガン付き版。本来は合唱で歌われる “ハレルヤコーラス” の箇所を、今回はオルガンで奏でる編曲での演奏。祝祭音楽にふさわしい管楽器の神々しい高らかな響きと、会場を包み込むパイプオルガンのハーモニーは神聖で厳かでありながら、生きる歓びに満ち、この1年以上の苦境を経て再び生きた音に触れられる観客の気持ちが反映されているようでした。

 冨田さんの独奏でオルガンの存在感を知らしめたのは3曲目のバッハ作曲《フーガ ト短調》(《小フーガ》)BWV578。非常にシンプルでありながら、緻密に計算されつくしたバッハ作品の特徴が明確に出ている冒頭からのわずか4小節半の旋律で、すうっとバロック音楽の世界に。4音で駆け上がり、4音で駆け下りるという流れがこうも豊かに鳴り響くのかと、オルガンという楽器の素晴らしさにあらためて驚かされます。

 第一部の最後を飾るのは、エルガー作曲《威風堂々》Op.39第1番 原典版。最初のMCで川瀬さんからの演目紹介にあったように、演奏される機会の稀少な、オルガンと共にある原典版。使用されたのは舞台中央奥のパイプオルガンではなく、舞台上で演奏が可能なリモートオルガン。冒頭からの悠然とした音の入りは川瀬さんらしい鮮明さと、力強く紳士的で堂々たるもの。美しい層となった弦楽器の厚みある音色と、典雅な管楽器とのまとまりが心地よく、その豪壮な音の海に身を委ねます。同じ舞台上で演奏していることでさらに息の合ったオルガンの重厚な響きが加わると、その高まりは最高潮に。

 休憩を挟んで第二部の幕開けは、ヨハン・シュトラウス2世作曲 オペレッタ《こうもり》序曲で華々しく。ウィンナ・オペレッタの代表曲とも言われるこの演目は、ジルベスターコンサートや新春コンサートでも演奏されることも多いハレの1曲。ヨハン・シュトラウス2世らしい、優雅でありながら軽快でチャーミングな旋律にいざなわれて、劇中の舞踏会の場面さながらウィンナ・ワルツを踊っているかのような気持ちに。会場内がひと足先に年末年始の晴れやかな空気に包まれました。

 この選曲への想いもひとしおと川瀬さんが話されたのはジャゾット作曲《アルビノーニのアダージョ》原典版。こちらも演奏機会が稀少なオルガンが入った原典版での演奏となります。「嘆き」「絶望」を表現する旋律となっていて、華やかな演目の中では異色の曲調。ですが、このような時勢だからこそこの選曲に込められた想いは、客席にたしかに伝わっていたことでしょう。低音弦楽器のピチカートと、読響コンサートマスター小谷森 巧さんのヴァイオリンのソロが繊美に響くほどに哀しさが深まりますが、その哀しみに寄り添うように鳴るオルガンの音色はまさに絶望の先に差す希望の光。川瀬さんのタクトが下ろされたあと、会場に満ちたすべての楽器から発せられた静かの残響の中に、嘆きや絶望を経て希望への祈りの声を聴くようでした。

 「コロナに打ち勝ち、近いうちに必ず訪れる私たちの勝利。最後の号砲が私たちのこれからを予言するものでありますように」演奏前に高橋さんが静かに語られたように、願いを込めて演奏された最後の演目は、チャイコフスキー作曲 序曲《1812年》Op.49オルガン付き版。タイトルにある1812年は、ナポレオンによってロシア帝国への侵攻が行われた年。この出来事はロシア文化に影響を残し、それはチャイコフスキーにも同様でした。激しい攻防から、一時はフランス軍によるモスクワ制圧に甘んじたロシアでしたが、そこから巻き返しナポレオン率いるフランス軍はロシアからの撤退を余儀なくされます。その攻防は曲中にも見ることができ、この曲に今の世相を反映させて明るい未来へと導かんとする川瀬さん、冨田さん、読売日本交響楽団の熱い思いを感じます。ヴィオラとチェロによるロシア正教会の聖歌をベースとした旋律で穏やかに始まりますが、ティンパニが暗示するロシア軍の行進へと描写を移し、戦いの気配を見せます。ロシアのボロジノ地方の民謡をモチーフとした曲想にかぶさるようにフランス国歌 “ラ・マルセイエーズ” が聴こええてきますが、負けじとロシア民謡風の主題が表れ翻弄してきます。やがて弱々しくなっていくフランス国歌に打楽器・弦楽器・管楽器が立ちはだかり、希望あふれる鐘の音に続いて、大砲を模した大太鼓の音がとどろきます。この迫力に舞台左右の2階席からオーケストラをのぞき込む観客の姿も。オーケストラが一体となった厄災を払うような咆哮に、割れんばかりの拍手が起こりました。

 アンコールは、ビゼー作曲のオペラ《カルメン》序曲。
前曲からの勢いと熱量をさらに加速させ、駆け巡るような疾走感、機微の利いたオーケストラの音色に客席は再び大いに湧きました。閉塞感を晴らすような好演に元気をもらい、希望を心に灯しての終演となりました。

 次回の「ららら♪クラシックコンサート」は第13回。6人の人気オペラ歌手が集い、童謡・唱歌・愛唱歌・日本歌曲を歌い上げる「美しい日本の歌 歌い継ぐ音楽のこゝろ」。番組初代MCだった加羽沢美濃さんもピアニスとして登場。初春の訪れを、華々しい歌声で包みこみます。
<文・吉村麻希>

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