番組ファンから~バンドネオン奏者 小松亮太さん

1998年のメジャーデビュー以降、日本国内はもちろん、カーネギーホールやアルゼンチン・ブエノスアイレスなどでもタンゴ界における記念碑的な公演を実現している世界的バンドネオン奏者・小松亮太さん。Eテレ「ららら♪クラシック」では、その歴史からピアソラまで、知っているようで知らない“タンゴの真実”を、実演を交えながら分かりやすく解説。タンゴにセクシーな踊りや「だんご三兄弟」のイメージしかなかったという高橋克典を感嘆させた。

タンゴを世界に必要とされる音楽に押し上げたい

「『ららら♪クラシック』では、タンゴの成り立ちから、楽器の独特な演奏法、タンゴの肝である豊富なリズムパターンなど、おそらくこれまで世界中で放送された番組の中で、一番間違いのない“タンゴの真実”をお話することができました。今年、デビュー20周年を迎えましたが、世界中のみなさんが信じ込んでいる、真実ではないタンゴについての話を『ららら♪クラシック』でやっと修正できたと思います。テレビでこういう話ができるようになるのに20年かかったという感慨がありました」

 タンゴというと、社交ダンスを想起する人も多いことだろう。確かにタンゴは今から150年ほど前、アルゼンチン・ブエノスアイレスの場末でダンス・ミュージックとして誕生。その後、個性的なソロを回すアレンジを考案したフリオ・デ・カロ、小編成で密なアンサンブルに磨きをかけたオラシオ・サルガン、タンゴにロックやジャズ、クラシックを融合させたアストル・ピアソラをはじめとするタンゴの巨匠たちの挑戦によって、大きなコンサートホールでも演奏される世界的に認められた芸術音楽の仲間入りを果たした。
しかし、「戦後の日本では過去に類を見ないタンゴブームが起こりましたが、60年代のビートルズの来日も相まって、タンゴの人気は一気に衰退してしまいました。その後80年代後半になって、ブロードウエイで『タンゴ・アルヘンティーノ』というショウが大ヒットになったことをきっかけに、日本でもタンゴの人気が再燃しましたが、アメリカでは“タキシードを着たセックス”、日本では“情熱のタンゴ”や“哀愁のタンゴ”といった陳腐な形容で宣伝されるようになり……」と小松さんは嘆く。

「確かに『情熱』という言葉であおることで、一時、集客はできました。でも、いつも同じことを言っていたらワンパターンなイメージが定着してしまいますよね。しかも、ブラジルとアルゼンチンとスペインの音楽はぜんぜん違うのに、サンバもタンゴもフラメンコもすべて同じ“情熱”という形容。辛いといっても、和がらし、青唐辛子、赤唐辛子、胡椒、山椒では違うのに、全部“スパイシー”という単語で済ませてしまうのと同じ感覚です。タンゴをやっている人間が、ビジネスのためにそれをよしとしてしまっているうちに、タンゴの歌の世界はシャンソンに持っていかれ、ピアソラの音楽はクラシックやジャズの人たちに全部持っていかれ、タンゴが本当はどういうものか、どういう素晴らしさがあるのかを伝えることをしないまま、月日を重ねてきてしまった。それはひじょうに残念なこと。隆盛期から約30年のブランクを経て活動を始めた、いわば新世代のタンゴ演奏者である僕は、過去のブームの時代に頼らず、“情熱”にも“哀愁”にも予定調和にもよりかからず、タンゴを世界に必要とされる音楽に押し上げたいと思っています」

そのためには「いい演奏に加え、タンゴの価値を言葉で説明することが絶対必要」という小松さん。「ららら♪クラシック」への出演もその一つだが、現在は、タンゴの歴史や演奏の専門的な中身までを紹介する本も執筆中と言う。

『ピアソラ:ブエノスアイレスの四季 他withイ・ムジチ合奏団』/20周年記念アルバム。

おなかの中にいるときからタンゴを聞いて育った

小松さんがタンゴに出会ったのは生まれてすぐ、いや、生まれる前と言ったほうが正しいかもしれない。母はピアノ、父はギターと、両親ともにタンゴ演奏者だったことから、自宅で毎日のようにリハーサルが行われ、演奏ツアーに連れて行かれることもしばしば。そんな小松さんが独学でバンドネオンを始めたのは14歳のとき。高校時代には早くも才能が開花し、伝説的タンゴ歌手である藤沢嵐子の91年のラスト・ステージでは、バンドネオン・ソロで伴奏を担当するほどに。しかし、バンドネオンを始めた当初は、「クラシックの音楽家になりたかった」と振り返る。

「タンゴの世界では、タンゴが好きでピアノを始めたとか、タンゴが好きでバイオリンを始めたという人はまずいなくて、他の音楽をやっていた人が途中から入ってくるのが前提のジャンルなんです。僕も同じ。最初は、なんでこんなもんが名曲なの?と思うような、つまらなく見える古いタンゴの曲が、毎日仕事で弾かされているうちに、どうも僕が考えていたような、単なる踊りの伴奏の、退屈なだけの音楽じゃないということに気づいて、引き込まれていったんです」

 当時のステージの観客は、世界的タンゴブームを知っている60代くらいの中高年。20歳前後だった小松青年は「どう考えても、自分が40歳になったときにはタンゴを求める人たちがいなくなり、食べていけなくなることが一発でわかった」ことから、タンゴを若者たちに広めるべく、自らワールドミュージック系を扱うライブハウスに交渉し、出演するように。すると口コミで評判は広がり、スカウトによって、‛98年CDデビューを果たした。 
 現在では、トラディッショナルなタンゴの演奏を大切にする傍ら、上妻宏光、葉加瀬太郎、宮沢和史、大貫妙子などなど、国内外の他ジャンルのミュージシャンからのラブコールを受け、コラボも多数実現している。

「世界中の他のジャンルの音楽家にとって、タンゴはものすごく個性的に見えるらしいです。確かに奏者はみんな“変わった”弾き方をするし、バンドネオンは楽器自体が珍しくて変わっている。そういうことに面白さを感じてくれて、さらにジャズともクラシックともポップスとも違うやり方でいい音楽を作る方法があるんだということを感じてくれる人たちとは、なるべく一緒にやらせていただき、タンゴを広くアピールしていきたいと思っています」

 最後にタンゴに馴染みのない人たちも楽しめる、タンゴコンサートの味わい方を教えてもらった。
「タンゴの面白さは、さまざまな音楽をルーツに人工的に出来上がった、つまり、いろいろな音楽ジャンルに依存して生きてきたところです。ですから、ポップスを聞いてきた人はタンゴの中にあるポップな部分を、クラシックが好きな人はタンゴの中にあるクラシックな部分を、ジャズが好きな人はタンゴの中にあるジャズっぽいところをキャッチできるはずです。これがタンゴかと思ってもらう必要はまったくないので、自分が好きな音楽との共通性と、真逆だなと思うところを面白がっていただければまずは十分だと思います。例えば、タンゴのピアノって実はこういうところがジャズだなとか、ギターのこういうところがロックだなとか、逆にクラシックではあんなバイオリンの弾き方はしないよな、とか。そういうところを意識して聴いていただければ楽しめると思います」
(取材・文/河上いつ子)

『小松ジャパン~ザ・グレイテスト・ヒッツ』/20年の軌跡を振り返るベスト盤。

■小松亮太(こまつ・りょうた)
1973年 東京 足立区出身。さそり座 AB型。高校時代より才能を発揮し、伝説的歌手である藤沢嵐子の91年のラスト・ステージではバンドネオン・ソロで伴奏を担当。98年のCDデビューを果たして以来、カーネギーホールやアルゼンチン・ブエノスアイレスなどで、タンゴ界における記念碑的な公演を実現している。
アルバムはソニーミュージックより20枚以上を制作。「ライブ・イン・TOKYO〜2002」がアルゼンチンで高く評価され、03年にはアルゼンチン音楽家組合(AADI)、ブエノスアイレス市音楽文化管理局から表彰された。15年にリリースした大貫妙子との共同名義アルバム『Tint』は、第57回輝く!日本レコード大賞「優秀アルバム賞」を受賞。
08年にはアストル・ピアソラの幻のオラトリオ「若き民衆」を東京オペラシティで日本初演。13年にはピアソラの「ブエノスアイレスのマリア」をピアソラ元夫人の歌手アメリータ・バルタールと共演し、ライブアルバムをリリース。
タンゴ界にとどまらず、ソニーのコンピレーション・アルバム「image」と、同ライブツアー「live image」には初回から参加。作曲活動も旺盛で、フジテレビ系アニメ『モノノ怪』OP曲「下弦の月」、TBS系列『THE世界遺産』OP曲「風の詩」、映画「グスコーブドリの伝記」(ワーナーブラザース配給・手塚プロダクション制作)、「体脂肪計タニタの社員食堂」(角川映画)、NHKドラマ「ご縁ハンター」のサウンドトラックなど多数を手掛けている。
これまでのタンゴ界以外での共演者は、ミッシェル・ルグラン、バホフォンド、イジョク(Juck Lee)、ジェイク・シマブクロ、ブロドスキ―・カルテット、ミルバ、上妻宏光、石井一孝、NHK交響楽団、小曽根真、織田哲郎、佐渡裕、葉加瀬太郎、宮沢和史など。タンゴ界ではビクトル・ラバジェン、ラウル・ラビエ、マリア・グラーニャ、オスバルド・ベリンジェリ、フアン・カルロス・コーペス、藤沢嵐子など。
16年12月「小松亮太meetsワールドバンドネオンプレイヤーズ」開催、17年7月にイ・ムジチ合奏団と共演するなど海外アーティストとの公演も重ねている。
2018年度より洗足学園音楽大学客員教授。

オフシャルサイト

■コンサート情報
◎小松亮太 with KaZZma スペシャルタンゴデュオライブ
2019年6月4日(火)まほろ座(東京)

◎live image 19 dix-neuf
2019年6月13日(木)14日(金)Bunkamura オーチャードホール (東京)
2019年6月22日(土)神戸国際会館こくさいホール(兵庫)

◎小松亮太五重奏
2019年6月27日(木)ビルボードライブ東京

2019年7月6日(土)鎌倉 歐林洞ギャラリーサロン(神奈川)
湘南SPECIAL LIVE 2019 〜あじさい〜 Vol.18 小松亮太

◎小松亮太 アルゼンチン・タンゴ・コンサートin熊谷
2019年9月7日(土)熊谷文化創造館 さくらめいと「太陽のホール」(埼玉)

◎新日本フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会 #25 ルビー「アフタヌーン コンサート・シリーズ」
2019年9月27日(金)すみだトリフォニーホール(東京)
2019年9月28日(土)すみだトリフォニーホール(東京)

◎小松亮太タンゴ五重奏feat 早川純
2019年10月26日(土)船橋市民文化ホール(千葉)

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